第60話 危機一髪

「ではご案内しましょうか。

ジュリエッタの部屋への出入り口は外です。

ルイ―ザ、マーガレット、お相手は私がします。

あなた達はここの片付けをお願い。」


「それならわしもご一緒させてもらうかな。

孫娘の部屋をのぞくなど悪趣味かも知れんが。」


そう言ってスカーレットは、スティールとおじい様を連れ、外に向かった。


「スカーレットったら、ここを片付けておけなんて、そんな事態じゃ無いのに。」


そうぶつくさ言いながら、カップなどを下げようとしたら、

ルイ―ザに怒られた。


「そんな事はどうでもいいんです!

早くお部屋に向かいますよ。」


部屋!?

だってそっちは今皆が向かってるでしょ?


そう思うけれど、ルイ―ザに腕を掴まれ、

駆け出す勢いでこちらからの狭い通路を急いだ。


当然スカーレット達が到着する前に辿り着いたが、一体何なんだ?


「ジュリエッタ様の荷物など、何を持ったのか何て分かりゃしません。

適当に荒らして、旅行鞄だけなければいいんです。

ただ、同じ部屋にマーガレットとしての道具が有れば、

頭のいい人でしたら一発でバレます。

さっさと撤去しますよ。」


さすがルイ―ザ、スカーレットの話の裏を読み、すぐに行動するなんてメイドの鏡。


ルイ―ザは、クローゼットや化粧台に適当に空間を作り、

空いたハンガーをばらまく。

それから私の空の旅行鞄を持ち、スカーレットの部屋に駆けて行く。」

私もマーガレットとしての地味なドレスなどをかき集め、

一瞬これをどうしようと思ったけど、

とにかくスカーレットに託すことにした。

つまり、スカーレットの部屋に突っ込んどくだけだ。


とにかく短時間で、もれが無い様にやったつもりだけれど、

これ以上は時間的に無理と思い、

入ってきた扉に隠れた途端、玄関が開く音がした。




「つまりあの建物の階段を上った先が、

この部屋に通じている訳です。

お分かりになりましたか?」


「確かにそれは分かったが、

この部屋にジュリエッタがいたと言う証拠にはならないだろう。」


「信用していただけないのですか?

仕方ありません、彼女の部屋にご案内しますわ。」


ルイ―ザ、ありがとう。

あの部屋を見せる訳には行かなかったもの。

暫くすると、ドアが開く音がした。


「さ、ここが彼女が暮らしていた部屋ですわ。

慌しく出かけてしまったのね。

片付ける暇が無かったのでしょう。」


「なるほど、ここがジュリエッタの部屋でしたか。」


その声とは別に、慌しく歩く音や、扉を開け閉めする音が聞こえる。

その状態では、このドアも明けられてしまうかもしれない、

こっそりこの場を離れた方がいいのではと思ったが、

やがて足音は遠ざかって行った。


その隙に私達はコッソリと下に降りる。


やがて外から現れた人たちは、まさに三者三様だった。

スカーレットはホッとしている様子。

おじい様は満足しきった顔。

そしてスティールはとても疲れ、落ち込んでいる様子だ。


「だから言っただろう。

ジュリエッタは、グレゴリーのわしの屋敷に向かったんじゃ。

時間を無駄にしたようだな。

わしだったら、あの場ですぐさま彼女を追いかけた。

もしかしたらジュリエッタを捕まえられたのかもしれんのに、残念じゃったな。」


「それならなぜ、あなたは一緒に行かず、ここに残っているのです。」


「わしの馬車は一頭立てじゃ。

早く移動するなら軽い方がいい。

当然の事じゃ無いかね。

なに、向こうに付いたらぼちぼち馬車だけ戻って来るさ。

それまでのんびり待つとしよう。」


それが本当ならいいのに、

そうすればおじい様とゆっくりお話が出来るのに。



「遅くに失礼した。

いずれまた挨拶に伺わせてもらおう。」


そう言い捨てて、来た時と同様に、慌しく帰っていくスティール。

しっかりとお詫びが出来無いなんて、まだまだお子様だわ。


スティールを送りに言ったルイ―ザが帰ってきた。


「スティール様はちゃんと馬車に乗り、確かに出て行かれました。

馬車が見えなくなるまで見送りましたが、一度も止まる事無く帰られたようです。」


取り合えず信じてくれたのだろうか。

念には念を入れて、スカーレットとおじい様は裏方面の表階段から、

私達は秘密の通路から部屋に戻った。



「ほほ~、成程ここに通じていたのか。」


おじい様は興味深げに秘密の通路を見ている。

私はその隙に急いで身支度を整え、正真正銘のジュリエッタに戻る。


「皆様、お茶の用意が整いました。

どうぞ居間までお越し下さい。」


ルイ―ザがそうふれ回わった。


そして私が居間に行くと、そこにはなぜかおじい様しかいらっしゃらなかった。




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