第29話 番外編/心強い大叔母様

グレゴリー帝国に入国した日のうちに、

私は無事、大叔母様の家に到着した。


大叔母様はいきなり現れた私に、驚きながらもとても喜んでくれた。


「いきなりでびっくりしちゃった。

大きくなったわねマリーベル。

もう立派なレディね。」


はい、もうしっかり大人です……。


「最後に会ったのは、あなたのおばあ様のお葬式だったかしら。」


「ええそうでしたね、おばあちゃんが亡くなって、

もう2年ほど経ちました。」


「あの時、私はあなたを引き取るつもりだったのよ、

それなのに、あなたったら幼さが残るあの年で、

おばあ様のパン屋を継ぐなんて言って、とっても驚いたわ。」


出されたお菓子をいただきながら世間話に花を咲かせる。


「で、今日はいきなりどうしたの?

何か困った事が起きたんじゃないの?」


ええ、鋭いですね。


「あなたがあの国の親戚に頼らず、わざわざ国外の私の所に来たっていう事は、

相当深刻な問題じゃなくて?」


「まあ、少し深刻な問題です。」


「少し深刻ねぇ、何それ。」


そう言ってころころと笑った。


「でも大叔母様には、ご迷惑はかけません。

ただ、この国に身を隠そうと思ったので、ちょっとお知らせと、

まあ、お仕事が有ったら紹介していただこうかと……。

ごめんなさい、結局頼りに来たような物なんです。

でも、大叔母様しか思い浮かばなかったんです。

すいません。」


「まあ何を言っているの、

可愛いマリーベルの事ですもの、何でも聞いてあげますよ。

でも一体何が有ったのか、正直に話してくれないかしら?」


「えっと、でも理由を打ち明けると、大叔母様まで巻き込む事になりそうなので、

出来ればその辺は、省いて…お願いできませんか?」


「ふむ、それは少し深刻…ではなさそうね。」


大叔母様はちょっと考えるようなしぐさの後、

私を見つめ、問いかけてきた。


「私だって、伊達に年を食ってきた訳じゃ無いのよ。

伝手だって色々有るし、けっこう構融通もきくのよ。

つまり、あなたの力になれると思うの。

あなただって誰にも言わないままでは、いざという時に困ると思うの。

出来れば訳を話て貰えないかしら。」


おばさまの真剣な様子に、私の心は揺れる。

どうしよう。

でも、ここで頼れるのは大叔母様しかいないし、

この先頼るのも、きっと彼女だ。

ここは正直に話した方がいいかもしれない。


だから途中省く事はざっと省いて、大まかな事を話した。

で、今は大叔母様にお小言を食らっている。

私の恋愛について怒られているんじゃないけど、

まあそれについてはロマンチックだと、

まるで恋愛小説を読んでいるみたいだと感激していたけどね。

私が怒られているのは、お腹に赤ちゃんがいるかもしれないのに、

1週間も、馬車に揺られたり、フラフラしていた事だ。


「まったくもうっ、一体何を考えているの!

さっ、行くわよ。」


「えっ、ど、何処へですか?」


「決まっているじゃない。お医者様の所ですよ。

話を聞く限り、あなたはまだ1度もお医者様の診察を受けていないでしょう?

もしかしたら間違いだった可能性も有るし、とにかく1度診てもらわなければ。」


流石に年の功だけは有る。

確かにその通りだ。


さっそく私は大叔母様に、お医者様までドナドナされた。

問診や検査の結果、どうやら当たりだったらしい。


「おめでとうございます。

大体2か月目の後半と言ったところでしょう。

で、どうなさいます?」


何を失礼な事を言っているのだろう。

そりゃぁ、父親の欄は空白だけど。

でも産むに決まっているじゃない。

そうで無かったら、何の為に苦労してこの国まで来たと思っているのよ。

でも、お医者様は事情を知っている訳では無いから、

単なる私の八つ当たりなんだけど。


まあそんな訳だから私はただ一言、産みますって言った。


「大丈夫ですとも。

この子は私の孫同然。

責任を持って私が面倒見ますから、よろしくお願いします。」


「それは心強い、良かったですねお嬢さん。

ではあちらで看護士が、詳しい説明をしますので、

それを聞いてからお帰り下さい。」


ええ、本当に良かったです。

これで安心してこの子を産める。

そう思ったとたん、肩の荷が下りたように、私はストンと落ち着くことが出来た。

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