第22話 番外編/約束
私の気持ちは焦る一方だけど、おじ様は外での様子には無関心で、
私を口説く事ばかりに一生懸命のようです。
おじ様、外がひどく慌しいのですよ。
こんな事をしていないで、早く帰りましょう。
「分りました。その指輪は有難くいただきます。
でもそれだけですよ。私はそれを付けるつもりは有りません。」
あなたが国王陛下である以上、それを私が左手の薬指に付けると言う事は、
私は陛下の婚約者になってしまう。
それでは私は、ゆくゆくは王妃………。
絶対に有り得ない話です。
でも私がそれを告げると、おじ様は酷くがっかりしていました。
「ダメなのかい……?」
その顔があまりにも哀れで、私の心にチクチクと刺さってくる。
だけどあなたと私では、身分違いも甚だしいのです。
一介のパン屋の娘が王妃などには成れる立場では有りません。
そう思うのだけど、とにかくおじさまの悲しそうな顔が、
私の罪悪感を痛めつけ、ついつい情け心が出てしまう。
「わ、分かりました。
では右手、右手に付けさせていただきますから。
そんな顔をなさらないで?」
「付けるだけ…なのかい?
それでは、私の君を愛する気持ちが…、指輪を贈る意味がないのか。
やはり私のエゴだよね。
ごめんね、私の気持ちばかり押し付けてしまって………。」
「そんな、おじ様の気持ちは十分わかりました。
でも、お互いの気持ちが通じていても、
おじ様と私では身分が違いすぎるのです。
私達だけで決めても、絶対に皆さんに反対される筈です。
どうか分かって下さい。」
「………えっ?
お互いに気持ちが通じているって、
その…、もしかして君も私の事を好いてくれている……?
そう思ってもいいのかい?」
しまった…、
つい言ってしまった。
でも、私の気持ちはおじ様に傾いていることは確かなんだ。
仕方がない。
「…ええ、確かに私はおじ様の事が好きです。
でも、それとこの話は別物です。
何と言ってもおじ様は身分の有る方。
それを考えれば私達は絶対に結ばれません。
回りの方が、賛成するとは思えません。」
おじ様のご家族の方が、周りの貴族や側近の方。
全ての方が絶対に反対なさる筈です。
「で、では、皆を説得出来たら、
周りの人から祝福される状況になったら、私と結婚してもらえないか?」
「そんな、そんな事になる筈は有りません。」
「だけど、もし説得できたなら、この指輪を左手にしてもらえるだろうか。」
そんな事になる筈は有りません。
でも私は、おじさまの、その必死な気持ちに負けてしまいました。
「分りました。
もし周りの方々に私達の結婚を認めていただけて、祝福されるのでしたら、
この指輪を喜んで左の薬指にさせていただきます。」
「本当だね。
その気持ちに偽りはないね。
嬉しい!
愛している、マリー。」
そう言っておじ様は私を抱きしめた。
少し苦しいけど、私も幸せだと思ってしまう。
私は今、絶対に有り得ない夢を見ている。
でも今ぐらい、そんな夢を見てもいいでしょ?
愛する人の胸の中にいる時ぐらいは…。
「私は絶対に皆を説得してみせる。
だからそれまで待っていてくれ。
もしかしたら時間が掛かるかも知れない。
でも必ず説得するから。」
「嬉しいです。
あなたが私を愛してくれたことが。
そして私があなたを愛しているこの事が
とても素敵で幸せです。」
「マリー、マリー。」
私たちは今、誰にも邪魔されず、
幸せな夢の中にいた。
「あの~~、この度はおめでとうございます。
で、指輪へのメッセージはいかがされますか?」
何ですかこのお邪魔虫は。
おじ様、この空気を読めない人を蹴り倒してもいいですか?
「そうだな、それには時間が掛かるのかい?」
おじ様はいかにも当然と言うような顔で私を抱きしめたまま、
その問いに答えていた。
「そうですね、5日ほど預けていただくことになります。」
「そうか、それならそれは今回は遠慮しておこう。
この指輪はたった今から片時も離さずマリーに付けていてほしいから。
ね、お願いできるかい?」
もう!仕方ありません。
私は既に、おじ様に完敗なのですから。
私はそっとおじ様に右手を差し出しました。
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