第17話 番外編/パンのお代は

「はー、昨日の利益は約5000ゼラかぁ。

まあ、多少の儲けが出ただけ良しとしましょう。」


何たって、昨日はかなりのパンを持ち去られたようなものだ。

あのパンは焦がしたと思って諦めるしかないわね。


さて今日はお休みだから、貯まった雑用を片づけましょう。

私はまず外の掃除をしようと、箒を片手に店のドアを開けた。

すると、ちょうど入ってこようとした人に、危うくぶつかりそうになってしまった。

慌てて除けようとしてふらつく私を、誰かが助けてくれる。


「あぁ、ごめんね。

大丈夫だったかい?」


見るとそこには、昨日の万引き犯。

……では有りませんね、あれは私にも非は有るのですから。

でも、昨日の代金を回収するチャンスだわ。


「やあ、昨日は失礼した。…もしかして今日は休みかい?」


「はい、申し訳ありません、今日は定休日で……。」


「そうか…、いや、昨日いただいたパンがね、

とても美味しかったから今日の分に取って置いたのだが、

いつの間にか無くなってしまっていたので、

仕方が無いからまたもらいに来たんだ。」


いえお客様、昨日の分は差し上げた訳では有りません…。


「大方私の側近が勝手に持ち出したのだろが、

一言ぐらい断ってもいいと思うだろう?」


「そ、そうですわね。」


「でも今日は休みか。

仕方が無いな、我慢をしよう。

で、お嬢さんは掃除かい。」


「はい、お休みですので一週間分の雑用をしなければならなくて。」


掃除でしょ、カーテンも洗いたいし、鍋も磨かなくっちゃ。

後は……。


「分かった、ではここの掃除は私がやろう。

なに昨日のパンのお礼だ。

私だって、メイドの仕事を見た事が有るから、掃除ぐらいならできる筈だ。」


そんな!お礼などされたらパン代を請求できなくなってしまうわ。

でもお客様は私からさっさと箒を受け取り、いえ奪い取り、

掃除を始めてしまった。

先ほどメイドがナンチャラと言っていたから、少し不安だったけど、

ちゃんとできるみたいだ。

見た限り楽しそうに箒を使っている。

まあ、仕方が無いわね。

一度は諦めたパン代ですもの。

今は掃除を手伝ってくれる人がいるのだけでも、助かるわ。


「では、申し訳ありませんが、よろしくお願いします。

私は中で鍋を磨いておりますので、何か有ったら声を掛けて下さい。」


そう言って、店の中に引っ込んだ。

それから20分もした頃だろうか、

ドアが開き、集めたごみはどうするの?と声が掛かった。

私が塵取りを片手に外に出てみると、店の前がきれいに掃除されていた。

ふむ、おじ様はなかなか凝り性と見た。

でも、小石まで集めなくてもいいんですよ。


それからちょこちょこと、色々な事を手伝っていただいていると、

昨日のようにお付きの方が、おじ様を探しに来ました。


「いい加減にして下さい。

せめて出かける時には私に一声かけて、護衛をお連れ下さい。」


またお小言を食らっているけれど、おじさまは全然気にしていないみたい。


「明日こそ、パンをもらいに来るね。」


そう言って、また皆さんに囲まれながらおじ様は帰って行った。

いえ、今度こそ買いに来て下さいませ…。


そして次の日、おじさまは約束通り店を訪れた。

そして、私の作ったパンを目移りしながら注文していく。

結局また一通り、殆どのパンを私は袋に詰め、お付きの人に手渡した。


「代金はおいくらですか?」


「はい、え~全部で3,080ゼラです。」


「ずいぶんとお安いのですね。」


はい、お安いのですよ。

だから踏倒されるととても困るんです。

するとお付きの方が、何かに気が付いたように私に尋ねた。


「もしかして、最初の日の代金は払っては……。」


「いただいておりません。」


私はにこやかに答えた。

だから私は一昨日の代金と、今日の分の代金を受け取った。

やったわ、これで試作品の材料が買える。

でも、代金をいただいたと言う事は、

この間おじさまに掃除をしていただいた事は、単なるただ働きになってしまう。

それなら今度おじさまがいらしたときに、食事でもご馳走しましょう。






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