第24話 決断の意味


『ルツ、僕は………。』


こういう気持ちは何て言ったらいいんだろうか。


西条さんの勧めてくれた映画は、SF系の感動モノで正直なところ、俺はあまり面白いとは思えない。俺は、な。


『ハヤテ様なら大丈夫です。』


これが西条さんの一番のお勧めか……他にもっとマシなの、あったんじゃないか?


「だめだ、見てらんねぇ。」

テレビの音量を下げ、携帯を開く。そしてこの映画のタイトルをネットで検索する。


「えーっと………あぁ、なるほどね。」

口コミのページを見て、意外と評価が高い事を認識する。


まぁ、実際スト―リーはよく作り込まれているし、なによりこの主人公の相棒のAIのキャラがいい。これだけでも面白いと評価を下すことは出来る。

ただ、俺には合わなかっただけで……。


「別れた直後とかに見れば泣いてたんだろうなぁ……。」


ふと昨日の居酒屋での出来事を思い出す。

元カノの柊木 千咲。同い年で、少しだけ人見知りで、でも二人きりの時は目一杯甘えてくる、そんな女性。


大学生の時にたまたま同じ教授の講義を選択していて、たまたま隣の席に座ってて、たまたまバイト先が同じで………重なる偶然に運命を信じたこともあった。


お互いに好きなアーティストのコンサートに、一緒に行った帰りに告白して、OKもらって………。


甦る思い出に少しだけ目頭が熱くなる。


「やっぱりまだ、忘れられるわけがねぇ……。」


忘れた気になっていた、回復したつもりでいた。けどそれはやっぱり嘘だった。忙しさとあまりの出来ごとの多さにかまけて、ちゃんと考えていなかっただけだ。


俺はまだ、何も振られた時から変わっちゃいなかった。


「……なんで俺は振られたんだろうな。」


改めて思い返してみると、俺ははっきりと振られた理由を明言されていない。

一方的に無理と言われただけで、細かい理由は何だったんだろうか?


俺の悪い所、駄目なところ、別れたくなった所…………駄目だ、分かるわけがない。

分かってたらそもそも直しているだろうし。


「今聞いて答えてくれるかなぁ……。」

再度携帯を開き、電話帳を見る。しかしタ行にもハ行の部分にも名前はなく、既に千咲の電話番号は無くなっている。


「そういえば自分で消したんだったけ。」


思い出した。そうだそうだ、別れてすぐに忘れるために削除したんだった。


馬鹿だな俺は、これじゃあ結局振られた理由が分からずじまいじゃないか。


柳生に聞けば知ることは出来るけど、今更そんなこともできないし……いい加減きっぱり忘れて諦めろってことか。


一つの結論にたどり着く一雪。しかしそれでも、しばらくの間電話帳の履歴を閉じることは出来なかった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


ちらちらと降る雨に 薄い雲の隙間から陽を差す太陽。

変な天気だ。晴れているのに雨が降ってる。


「よっ、待たせて悪いな。それにしても急に来るなんて、なんかあったのか?」

昨夜から一晩明け、今日は日曜日。俺は今、柳生の家に来ていた。

目的は言わずもがな、千咲の電話番号だ。


「いや、ちょっと聞きたいことがあってな。」

「ふ~ん。ま、とにかく上がれよ。」

「サンキュ。」

先導して二階に向かう柳生の後をついて行く。


「……?リビングじゃないのか?」


なんでわざわざ二階に向かうんだ?


「二人の方がいいいんじゃねぇの?」


あぁなるほど、また察したな。

全く、本当にすごい奴だな、柳生は。


「ありがとな……。」


そうして向かった柳生の部屋。特に目新しいものはなく、増えたものといえばくるみの写真ぐらいだ。


「んで?聞きたいことって?」

部屋に入るなり椅子に座って振り返る柳生。俺もいつも通り座布団の上に腰を下ろす。


「すごい今更だし、何言ってんのとか思うかもしれないんだけど……」


過去の言葉は取り消せない。けど今の俺のこの思いは、その過去の言葉よりはるかに大事なんだ。


「千咲の電話番号を教えてほしい。」


言った、言ったぞ。もう後戻りはできない。


「………お前もか……。」

ぼそりと、本当に小さい声で呟く柳生。


「ん?なんか言った?」

「いや、なんでもない。ほらよ、たぶん柊木で登録してるから。」

開いた状態で渡される柳生の携帯。


もう覚悟は出来ている。何て言われてもいい。

ただ懸念すべきは無視されることだ。

仮に千咲が俺の連絡先を既に消していたらその時点でアウトだし、仮に残していたとしても、千咲からすれば今更話す必要性はないって判断されて、出てくれないかもしれない。


そうなれば俺がどれだけ足掻いたって、全て無意味で終わる。


生唾を飲み込み、柳生の携帯に表示されている千咲の番号を自分の携帯でダイヤルする。


後はかけるだけ、この表示をタップするだけ。


「しっかり話しといたほうがいいぞ。」

かける直前で口を出す柳生。


「うん。ありがとな。」

数少ない俺の幸運、友達の柳生がいたこと。


柳生が居なかったら、俺は今スタートラインにすら立ててない。


「別にいいって、番号教えただけだし。」

借りていた携帯を柳生に帰す。


神様、お願いします。何も高望みなんてしません。だから今一度、千咲と話をさせてください。


お願いします。


覚悟を決め心構えをして、俺は千咲に電話をかけた。

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