第4話 治療院はじめました

 今日から僕はロークラス向けの治療院を始める。


 ミドルクラス街の端っこで、海岸に一番近い建物の一階を借りた。通り側の壁はガラス張りで扉が付いていて、その他3面は窓もない壁で囲われた一般的な店舗スペースを貸してもらっている。


 コートさんの治療院はミドルクラス街でも更に山よりの位置にあり、ハイクラスの屋敷も近かった。海岸近くのこの場所とは雰囲気がかなり違って落ち着いた街並みが素敵だったが、僕の住まいからは遠かったので海岸近くで働けるのは助かる。


 人通りが出てきたので、そろそろ治療院を開ける時間だ。宣伝していないので誰も来ない可能性もあるが、店舗のガラス面にはデカデカとロークラス向け治療院と書かれているので初日だが数人は入ってきてくれるだろうと安易に考えていたが午前中は誰も入って来なかった。。


 お昼ごろやっと一人目の人が入ってきた。


「どう?繁盛してる?」

「なんだギルか。外から覗いていく人はいるけど入ってきたのはギルだけだよ」

「まあロークラス向け治療院という物になじみが無いし、治療費が高そうだから怖くては入れないよね」

「安いから安心して入ってきて欲しいけど、そうか治療費が分からないと入りにくいね」


 ギルは隣に住む青年で、仕事に遅刻してくるような抜けたところも有るやつだが、時々重要な事に気付かせてくれるところも有る。


 言われてみれば治療費がいくらか分からないとなると僕でも入らない。僕は急いで治療院の数件となりにある看板屋に行き、小さな板切れに500ゼンとだけ書いてもらった。もっと大きな看板にしたいところだが、お金もないし患者もいない状況なのでしかたがない。


 小さな値段だけを書いてもらった看板を持ち帰り、店内からガラスに立てかけた。


「ギルありがとう。君が言ってくれなかったらと思うと怖くなるよ」

「店舗の家賃が大変そうだもんな。いっぱいの人に来てもらわないとすぐにやっていけなくなるんじゃないか?」

「そうなんだ。人が来てくれると良いんだけどね。」


「そうだ、お礼に回復魔法をかけてあげるよ」

「良いのかい?500ゼンなら昼飯程度だから払えなくもないけど」

「いいよ。サクラってやつにもなるからね。」


 ギルが治療を受けている所を見れば、自分も入ろうかという人が出てくるかもしれない。宣伝もかねて大袈裟に治療してみる事にした。


 魔法は使用時に光を放つが、慣れてくると光を出さずに魔法を使う事も可能だ。ハイクラスなどが害獣退治に使う攻撃魔法は光を出さない方が都合がいいが、癒しの魔法使いにとって光は重要だ。なぜなら光を出した方が患者が喜ぶからだ。


 緑の光を見ると気分的にも治る気がするらしい。この治りそうだという気分も治療には有効なので癒しの魔法に光は欠かせない。


 椅子に座ったギルに手をかざして緑の光を出しながら身体の状態を見てみると、腰のあたりに問題がある事が分かった。


「腰を痛めているのか?」

「分かる?子供の時に高い所から落ちて、それ以来調子が悪いんだ。時々起きれなくなるほど痛むから仕事にも遅れてしまう。これが治るなら嬉しいな」

「知らなかったよ。これから回復魔法をかけるね。この魔法は活力を上げて人を元気にしたり人がもともと持っている治癒力を高める魔法だから、魔法をかけた時に少し改善してその後も少しずつ改善が見込める魔法なんだ。1回で完全に治る事は無いかもしれないけど、かなり楽になるはずだからやってみるよ」


 手のひらから更に緑の光を出してギルの腰を重点的に回復魔法で癒していく。ギルもかなり魔素を溜め込んでしまっている状態だったので、その魔素を使って回復魔法をかなり強くかける事が出来た。


「どうだろう?腰の治療もだけど体内の魔素もだいぶ薄めたからかなり調子が良いと思うんだけど」

「すごいな。これは楽だ。腰の痛みが無いなんて考えられない」


 ギルは腰の状態を確かめるように上半身を前に倒したり、後ろにのけぞらしたりしながらニコニコしている。


「調子が悪くなったらまた来てね。今度はお金取るけど」

「そりゃ当然お金は払うよ。でも本当に癒しの魔法はスゴイなこんなに楽になるなんて」


 ギルが嬉しさのあまり、涙を流し始めたのでかなり照れくさい。喜んでもらえたならよかった。


 このギルの治療がきっかけとなり、ロークラス向け治療院の初日はギルを合わせて5人の患者さんを治療して終わった。

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癒しの魔法で僕にできる事とは? KAZUO @kazuo46

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