第10話 武器受領
食べ終えると、隣の研究所の中にある特殊次元対策課に出勤する。
「楽しみだわ」
紗希は嬉しそうだが、訓練結果は酷いものだった。
体力はない。筋力も無い。射撃をしてみれば、自分の前でなく隣の的に弾が当たる。特殊警棒を振ってみれば手からスポーンと吹っ飛んで行く。
「紗希。やっぱり無理だと思うぞ」
「わからないわ。新装備だもん。当たるかも」
「いや、そういうとんでもない機能は付いてない」
弾に行先を入力するしか、紗希が命中させる手段はない。
「見てなさい。あっと驚く成績を更新するんだから」
根拠のない自信は、小さい頃から篁文は聞かされてきたものだ。
「はいはい」
その結果もこれまで通りに違いないと思いながら、逆らわずに返事をしておく。
やがて他の皆も集まり、新装備の説明を受けに、まずは分析室に行った。
「へえ」
虫の死体に向かって発砲し、虫が膨張してパンと破裂するのを映像で見る。
「なかなか、エグイのねえ」
「死体が残らないほどであるな」
紫色の体液と体を飛び散らせる虫に、パセとドルメが引いた。
次に特殊な周波数の振動を発するナイフで化け物の死体を切ると、簡単にスッパリと腕が切断された。
「まあ!凄いのね!これなら硬い魚の骨も簡単に!」
「紗希、テレビショッピングの万能包丁じゃないんだぞ」
しかし、この前の苦労がうそのような切れ味だ。
「刃の形状や長さは、各々が使いやすいように調整するわ。
あとは、虫を逃がさない為のネット発射器とか、逃げるのを追跡するドローンとかね」
武器開発や分析を担当するルルカという研究員が、そう言って、椅子の上で足を組み替える。
「吾輩は、斧と槍を得意としていたのであるが」
ドルメが言う。
「槍ならどうかしら。柄を伸縮式にして。長さと柄の太さを聞いておいた方がいいみたいね」
「うむ。よろしく頼む」
「あたしは、ナイフかしらね」
「わかったわ。
篁文は?」
メモを書き込みながら、ルルカが訊く。
「俺は……武器に触る事すらなかったからな。得意不得意が分かるほどの経験がない」
ルルカは少し考えて、
「じゃあ、何種類か試してみて決めるといいわ。
紗希も……ああ、紗希は……そうね……」
言葉に詰まる。
「刀がいい!」
「紗希。見た目で言っているだけだろう。扱えるかどうかは別問題だぞ」
「フンだ」
「お前もまず、試してみろ。な」
多分だめなんだから、というのはこらえた。言えば、意地でも戦闘に参加すると言い張るに違いないと確信できるくらいには、篁文でなくとも、全員が紗希をわかっていた。
「セ、セレエは」
パセがさっさとセレエに水を向ける。
「僕は無理だね。銃ならまだしも、そういうのはできそうもないな」
セレエは自分をよくわかっている。
「じゃあ、そう言う事で。次は銃ね」
紗希に反論の余地を与えないうちに、銃の話に移る。
「反動や重さを確かめるためにも、試射しておかないといけませんからね」
ヨウゼの先導で、射撃場に行く。
大きな銃が運び込まれて来る。
「重そうだな」
セレエが、予想と違うと言いたげに呟いた。
発射されるのがただの銃弾なら、こんなに大きくはならない。特殊な周波数のエネルギーの塊を生成し、発射するために、大型にならざるを得ないらしい。
各人が銃を受領し、射撃ブースに入る。
号令の下、同時に同じ動作をしていく。
「まず手前のレンズを覗いて、網膜を読み込ませて」
小さなレンズを覗くと、音声が聞こえた。
ピッ。登録者綾瀬篁文と確認しました。安全装置を解除します。
「声が聞こえたでしょう。それは本人にしか聞こえない指向性を持つ音声よ。この銃は、登録者にしか使用できないから。
次は、的を狙って撃ってみて」
ルルカに言われて、各々撃つ。
銃口を上げているのも、銃本体の重さがそこそこあるので、じっと狙い続けるのは大変な気がした。狙って、トリガーを引く。
発射まで数瞬のタイムラグがあり、大きな火の玉にも見える何かが飛んで行く。
真ん中付近に当たり、的は吹っ飛んだ。
次々に他の皆も撃つが、セレエは下の方に外し、
「重い」
と文句を言った。
「きゃあ!」
紗希が撃って、隣のパセが
「え?ふぎゃあ!!」
と叫んだ。
「どうした!?」
皆が通路に下がって、何事かと紗希の所に目をやる。
的は無事だ。代わりになぜか、前方の床が線状に傷つき、隣のブースとの仕切りがへこんでいた。
それを見て、全員ゾッとした。
「ささ紗希」
「ごめんねえ」
「は、ははは」
腰を抜かしたパセは空虚に笑う。
「確かにあっと驚く成績だ」
篁文は大きな溜め息をついた……。
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