第8話 やっと会えた

俺がゲーム内に閉じ込められてから4日目、

エイジさんは毎日何かある度に連絡をくれる。

運営の調査の結果、俺の本体は今病院に入院中の様だ。

どうやら俺がここに入り込んだ時、本体は意識を失い救急車で病院に担ぎ込まれ、未だに意識不明だそうだ。

たまに意識が浮上しそうになるが、覚醒するまでに至っていない…との事。

それって時間的にこちらでの夜中で、俺が睡眠をとっている時だと思う。

エイジさんにそれらの事を運営サイドに伝えてもらった。

とにかく今このアバターを動かしているのは、

俺自身で在る事は確認が取れたようだ。

ギア無しでゲーム内にいきなりログインしてしまった事など、

訳の分からない事だらけで、

運営側も速やかに研究チームを組み、

病院側と共に俺の治療に当たる事になったようだ。

この件が公になると世界中に影響が出るので、

家族以外には口止めされているらしいが、

俺の意識がゲーム内にいると言う事は、家族にすら言っていないみたいだ。

とにかくこの症例は、今のところ俺だけにしか起きていないみたいで、

良かったと言うか、悪かったと言うか……。

世界的に広まっているこのゲームを、

いきなり停止するにはリスクも高すぎるし、

ログインしている人にもかなり負担が出てしまうから、

このゲームは、注意しながらも現状維持をするようだ。

そして俺の体は三上郡の病院から、どこかの大学病院に移動されて、

治療という名目の研究体となっているみたい。

まあ早い事ここから出られて、

また何の心配もなく、自由にゲームを楽しめれば、

なんも言う事は無いよ俺は。


そして5日目、

いつものように朝飯を食いに行こうと、ギサの町を歩いていると、

後ろから走ってきた奴に、いきなり抱きしめられた。


「うおっ!」


「皐月!皐月!おまえっ……。」


那津!


「お前何やってたんだよ!

相談したくてもちっともログインしてこねえし。

俺がこっちでどんなに心細く…。」


俺はサリューにぎゅうぎゅう抱き締められながらも、必死になって文句を垂れた。

ちょっと腕緩めろや、苦しいって。

何たってゲーム内では、俺は身長140㎝有るか無いかのチビだし、

対してサリューは、リアルではぴちぴちの女子高生だけど、此処では20歳の男性。

年齢に匹敵した身長と体格で、青い騎士の衣装を難なく着こなし、

メチャクチャかっこいいんだよな。

だから見かけも体力も差は歴然だ。


「皐月、こんな所で何やってるんだよ!人に心配かけて……。」


那津、もしかして泣いてる?

俺は両手をサリューの背に回し、ポンポンと叩いた。

うん、確かに心配かけたよな。

考えてみたらリアルでは那津の前で倒れたんだ。

大まかな事は親以外には知らされてない筈だから、那津は蚊帳の外だった筈。

那津、心配かけて悪かった、ごめんな。

とにかくちゃんと説明しなくちゃ。


「那津、俺の家に行こ?

話したい事があるんだ。」


そう言って、俺達二人は家に戻る事にした。



「なあ、一緒にスーパー行った日のこと覚えてる?」


「ああ。」


「実はあの時、俺が庭でしゃがみ込んでたのってさ、」


「やっぱり何かあったんだろ?」


やっぱり那津だよな、俺の事をよく分かっている。


「うん、信じてもらえるか分からないけど…、

俺自身、あれは幻だと思ってたぐらいだから。」


「お前の言う嘘と冗談以外、私が信じない訳ないだろう。」


「俺の嘘と冗談とマジって判別つくのか?」


「何年付き合ってると思ってるんだよ。」


そう言って俺の頭をぐいっと引き寄せ、無茶苦茶にかき混ぜる。

止せってば、猫っ毛だから絡まるんだよ。


「あの日、俺、買い物に行こうと思って玄関から一歩踏み出した時さ…………。」


それから、今まで有った事を、俺はサリューに全部話した。

かなり時間がかかったけれど、その間サリューはじっと俺に付き合ってくれた。

多分全部話せたと思う。

話し終わった時、どうしてか俺はサリューに肩を抱かれ、涙を拭かれていた。


「ごめん。私がもっと早く此処に来ていれば、

お前をこんなに不安にさせなかったかも知れないのに。」


「そ、そうだよ!俺ずっと待ってたんだぞ。何で来てくれなかったんだよ!」


我ながら大人げないと思う。

でも、今まで不安だった分、ついサリューに当たってしまったんだ。


「此処には楽しかった紗月との思い出が詰まっていたから、

ログインするのが辛かったんだ。」


「?」


「今のリアルのお前は意識が無く、病院のベッドに横たわっているだけだ。」


うん、エイジさんから教えてもらった。


「原因も分からない。眠っているような状況だと医者は言っていたが、

目を離すと、いつ呼吸が止まってしまうか不安で……。

私はお前の傍から離れられなかった。

怖かった。すごく。」


「ごめん……。」


て、俺が悪いのか?


「でも何故か、お前は三上総合病院から、東京の大学病院に移されたんだ。」


「ああ。エイジさんが教えてくれた。」


「…そうか、紗月の所には、

もうエイジさん経由で運営から連絡が来ていたんだったな。」


「うん。」


「私は皐月に付いて行く事が出来なかった。

叔母さんは何かあったらすぐ連絡すると言ってくれたけど、

1日に1回電話をくれたけど、だけど!」


那津、ただ寝てるだけの俺の様子を、

1日に何回も電話で説明するのは、おふくろも大変だと思うぞ。

考えてみろよ、

朝電話で寝てます。

昼電話で寝てます。

夜電話で寝てます。

空しいだろうが。


「分かってはいるんだ。

でも……何もできない自分が不甲斐なくて、じれったかった。

私は…。」


サリューはまた俺を抱きしめている腕にギュッと力を込めた。

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