ラブトブレイブⅡ プレビュー

剣の勇者vs闇の騎士



 町の程近くにある、木材集積所。

 積んであった丸太は防衛陣地の作成に使われ、数をだいぶ減らしている。

 石材を用いて頑丈に建てられた作業・休憩小屋が一棟あり、あとは平らにならされた地面が広がっている。



 対峙するシザと闇の騎士。

 互いが互いを強敵と認め、しかし両者とも構えてはいない。逸るだけの態度では、相手に対する礼を欠く。その考思おもいは闇騎士の方に強く燃え、彼は猛る黒点を自らの内に抱えつつ、死闘の前にふさわしい平静さを保っている。

 他方、シザ。

 表情は引き締まっているが、気負いはなく、言うなればどこか楽しげである。ただし純然たる喜びを感じているわけではない。それは闘争の中にあって、視野と思考を広く保つための彼なりの技術。明るさを失えば暗くなる。それが自明であるゆえに。


 闇の騎士が、自らを覆っていたオーラを吹き散らした。


 音を立てて巻き上がった黒い風の中に、銀灰色の鎧が現われる。

 頭部からつま先までを覆う全身鎧フルプレート。その色はいぶされたような灰色かいしょく。輝かしさの対極にあるくすぶり。幾億もの敵を屠るなかで磨かれた――否、洗われた歴戦の相。戦火の黒に、煤ける灰銀。

 兜の眉庇バイザーからは、漆黒の一色だけが覗く。鎧の各部からも、立ち昇るのは闇。鎧を装着した人間がそこにいるというよりは、質量を持った影が鎧の中にいるような、人ならば抱くだろう些細な違和感がそこにある。

 しかし、自らに課していた拘束・・を解いた今、いまこそがこの騎士の十全なのだろう。表面を軟化すらさせていた鎧――あるいは甲殻のようなものかもしれないが、それは本来の硬さを取り戻したように印象を変え、そして鎧の隙間から上がる闇のオーラは後光めいて、強さの貫禄を騎士に与えていた。

 右手には、並よりも厚い直剣。その戦歴をすべて共に歩んできたのか、体の一部かというほどに馴染んだ獲物ものを携えて。

 左手には、改良されたカイトシールド。もはや別種と言えるほどに形を変えた中盾は、それ故の取り回しの良さを具え、剣技を支える壁となろう。

 他方、再びのシザ。

 彼が身に着けている黒い鎧は、胴体だけを覆う簡単なものだ。印象に重みはあるが、重量としては軽量の部類。むき出しにされている太い両腕。左の前腕だけは、黒い手甲に包まれている。

 背負っている両手持ちの大きな剣は、剣士が持つものではない。戦士、あるいは自由大陸の狩人が、大物狩りのために選ぶ獲物だ。両刃の剣身、刃は真っ直ぐ伸びている。2メートル近い彼の身長に、並ぶくらいの全長がある。


 大剣を手に取りつつ、剣の勇者は名乗る。


「シザだ」

 こくり、と。闇の騎士は頷いて、我が身を示すように盾だけを構えた。

 かつての所属を表すのだろう部隊章。盾に施された装飾の中には、騎士自身のものらしきパーソナルマークも描かれていた。胸に大穴を開け、ただひたすらに求め続けるような、亡者の姿。

 その盾に、礼を添えるように、闇の騎士は長剣を構える。

 シザ、正眼にした大剣はそのままで、笑みを浮かべて頷く。

 そして――、

 すっ、と、互いの雰囲気から、表情が消えた。熱もなく、いまは水のように、全てを受け入れるような無表情。

 沈黙を置いた二人。やがて両者は静かに踏み出し、


 剣戟が始まった。


 打ち鳴らされる音色は、その印象のおそらく・・・・は楽器に似ていた。

 両者ともに十分に余力を残した、けんのための打ち合わせをしている。

 斬り、弾き、躱し、回り、離れ、寄り、斬り、受け、離し、寄り、斬る。

 一連の流れは美しく、触れれば切れる一本の張り詰めた鋼線のようだった。


 二人の剣士が、踊る。


 剣気。剣士が扱う、〈剣〉にのみ込められるオーラ

 基本的に、良い材質を使い、多くの質量を持った剣ほど、込められる剣気の最大量は上がる。

 シザが手にする大剣は、様々な勇者の元を渡り歩いてきた一振り。かつては黄金色に輝く竜伐の剣と伝説に謳われたその剣身は、しかし今は黒く錆びついたような様相を表している。

 だが、アダマント化したオリハルコンで創られたこの大剣には、未だ計り知れない力が秘められている。この剣の前にあっては、歴史上の名剣も凡百のものと化すだろう。

 そこに込められる剣気。そこから放たれる最大火力は、闇の騎士のそれを遥かに上回ることは間違いない。

 が、

 必要十分という言葉がある。

 闇の騎士による剣気を込めた一太刀がシザの首を刈れば、即ちそれはクリティカル即死になるだろう。


 静かに上がった死闘の幕。互いに同調するかのような剣技の演奏は、しかし徐々に圧力を増してゆく。振るう一閃に、僅かの熱が込められてゆく。両者のぼうが、輝き始める。

 高まりは昇る。剣戟に死線が混じり始める。爪と牙がそれぞれの刀身に宿ってゆく。昂揚はいよいよ燃え始め、その熱量を増してゆき――、

 ギアをトップに叩き込んだ瞬間は、互いに同時だった。


 剣嵐が巻き起こった。


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