十
「うん。飲んだよ。僕が大人にならなきゃ仕方ないよね。神様、ありがとう。できればここで話したいんだけど、お母さんを呼んでくれない?」
「そうだね。もうすぐ来るよ」
その言葉通り、警察の車がサイレンを鳴らさずに到着した。二人の警察官と、後ろの座席からはトトリの母も降りて来る。
「トトリ! どこに行ってたの⁉ 何して来たの? 誰と一緒だったの? とっても汚れてるじゃない。変なものは食べていない? お母さん、心配で眠れなかったのよ! お父さんの事は何にも心配しなくていいのよ。トトリは何も悪くないんですからね」
一気に捲し立てるトトリの母を、警察官が止める。
警察官はケンに「ご協力ありがとうございます」と言っている。そして母親の質問に一言も答えなかったトトリが、唐突に口を開いた。
「どうしてお父さんを殺したの?」
トトリの母が目を見開くと、警察官の一人がトトリのそばにしゃがんだ。
「その話も、トトリ君が今までどこで何をしていたのかも、全部聞かせてくれるかな?」
「うん、いいよ。お父さんはお風呂場で転んだけど、それは病気でお酒をやめられなかったからだもん。お父さん、薬がもらえないから困るって言ってた。お母さんでしょ? お父さんが言う事を聞かないから嫌いだって言ってたもんね」
「そんな……お父さんの話を信じちゃいけないって言ったでしょ?」
「そうだよね。僕もお父さんも、お母さんの話だけを信じなきゃいけないんだよね。そんなのおかしいって、ずっと気付いていたよ。僕が何を言っても、お母さんは僕が子供だからって話を聞かない。最近はおかしいって言わせてもらえなかったし。僕、ずっとお母さんと一緒にいる事が苦しかったんだよ」
それはトトリの最大限の反撃だ。おそらく、初めての。
母親は呆然としたままパトカーに押し込まれ、トトリも私たちに頭を下げてから同じ車に乗り込んだ。
走り去るパトカーを、雑兎とケンと三人で見送る。
トトリの母親が捕まるかどうかは分からないし、トトリのこれからの生活がどうなってしまうのかも分からない。
けれどトトリのスープには決意大根があった。だから大丈夫だと思う。そう信じてる。
「トトリは強いね」
誰に言うでもない私の言葉に、雑兎が返す。
「お前はどうすんだよ?」
「そうだよね。どうにかしなきゃね。家の事も……」
サグメの事も。乗り越えて歩いて行かなければならないんだ。大人になるしかどうしようもない、と言ったトトリの様に。
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