三
「帰って来ないって、いつから帰って来ないの?」
「二か月前くらい。お母さん、仕事だって言ってたのに……どこにいるか知らないって言い出して。それじゃあ行方不明じゃないのって言ったら、そうかもねって言うんだ。でも探そうとしないから、一人で来ちゃった」
聞いてみると思っていたより大変な話で驚いた。小学生がこんな事を一人で出来るはずがない。それに何より危ない。
これは手伝うしかないなと思った。そしてトトリに聞く。
「お父さんの携帯に電話してみた?」
「してない。僕とお父さんの携帯はお母さんに監視されてるから、お母さんに探してる事がバレちゃうもん。だから今日も置いて来たんだ」
「監視されてるって、GPSとかでしょ?」
私の言葉に、トトリは首を横に振る。
「違う。どこに電話したのかとか、声も聞こえるって言ってた」
「何それ……」
怖い、と言おうとしてやめた。どんな親でも、トトリにとっては親なのだ。
代わりに私は、探すのを手伝うと提案する。
「いいの?」
「いいよ。取りあえず警察の所に行こうか」
「うん。ありがとう」
私は、どうせ別居でもしているのだろうと考えていた。だから警察に行って、トトリのお父さんに連絡してもらえばそれで済むと思っていたのだ。
近くの警察所に行ってみると、予想していたのとは違う反応が返ってきた。
「すみません。相談したい事があるんですけど」
私がそう声を掛けると、優しそうな婦警さんが「ちょっと待ってね」と言う。
婦警さんに言われてやって来た中年のおじさんは、トトリを見るなり「またか」と溜め息を吐く。
しかしトトリは訳が分からず、首を傾げている。
「あの……?」
「あぁ、とにかく話は聞くから。そこの長椅子に座って」
私の言葉に、疲れたようにそう返す。
てっきりどこか別の部屋へ通されるものだと思っていたので驚いたが、それ以上に驚いたのは手に紙もペンも持っていない事だ。
「それで、君はクラド トトリ君だね。そっちの君は?」
「トリフネ コヤネです。えっと……付き添いです」
「そう。それで、今日はどうしたのかな?」
「お父さんが行方不明なんです」
トトリがそう訴えると、警察官はあからさまに頭を抱える。
「あのねぇ、いつも言ってるけど、数時間程度で行方不明とは言わないんだよ」
「もう二か月も帰ってきてないです」
警察官の溜め息交じりの言葉に、トトリははっきりと言い返す。
「え? 二か月? 君のお父さんてクラド サヅチさんだよね?」
「はい。どうしてお父さんの名前、知ってるの?」
「おじさんは警察官だからね。それよりね、お父さんは行方不明なんかじゃないよ。二か月だって? 有り得ないよ。つい一週間前に調べさせられたんだから。あんまり言いたくないけどね、こう何度も来られちゃ困るんだよ」
警察官はトトリに頼み込むような様子で言う。
「僕、ここに来るの初めてだけど?」
トトリは怒るでもなく、何となく納得したような顔で言った。
「え? そうだっけ? あぁ……そうか。君は初めてなのか。そうか、写真で見ただけだったか? いやぁ、悪かったね」
「いいよ。それよりお父さんは?」
「行方不明じゃないよ。ちゃんと居るから。ほら、もう帰りな」
そんな風に、何だかよく分からないまま外に出てきてしまった。
外に出てからトトリにどういう事かと聞くと、すっと無表情になった。
「たぶん、お母さんが来てるんだよ。いつも、捜索願を出すところだったとか言うんだ。あれは僕を脅してるだけだと思ってたのに……本当に来てたなんて」
私はトトリを放っておいてはいけない気がして胸がざわつく。けれど、それを口に出して言いのかも分からない。
私たちはお昼ご飯をコンビニで済ませてから、トトリのお父さんの会社に行ってみる事にした。
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