波乱の入団会見
そして年末には、指名した7人の入団会見が行われた。岡本監督を中心に、7人がスーツの上に背番号入りのユニフォームを来て着席した。中村オーナー自らが司会を務め、まずはそれぞれに抱負を述べた。
「背番号11、1位の高橋正輝です。尊敬する岡本監督からまた指導を受けることができるとは夢にも思いませんでした。まずは新人王と沢村賞を取りにいきたいと思っています」
「背番号22、2位指名の小林一浩です。また賢治とバッテリーが組めることになって嬉しく思います。強肩強打の前評判どおりに活躍して、いずれは4番を打てるようなキャッチャーになれるよう頑張ります」
「3位指名、背番号28の田中優斗です。自分は高校出てロイヤルズに入団する訳ですが、1年目から一軍に呼ばれるよう頑張りたいです」
「4位の坂本英二、背番号は34です。自分は左投手なので、左打者には絶対打たれないピッチャーになりたいです」
「5位の伊藤翔吾、背番号は36です。走攻守三拍子揃った、いずれはトリプルスリーを達成できるようなショートになれるよう頑張ります」
続いていろんな意味で注目を集める女性選手2人。まずは山田から答えた。山田は身長158cmと小柄ながら、女子プロ野球で2年連続4割をマークした左打ちの内野手だ。
「背番号51、6位指名の山田杏里です。自分は女子でも背が低い部類に属する選手ですが、自分の打撃・走塁・守備が男の世界でどこまで通用するかワクワクしています」
そして最後。西村であるが、女子高生ながら175cmとモデル並みの長身左腕。『実はロン毛の男』説も出たが、ブラウスのボタンがきつそうないわゆるロケット乳(バスト80)と声色で女子と確定した。しかし、そんな大胆な行動に出るとは思えないほど、ガチガチに緊張していた。
「せ、背番号・・・68・・・ドラフト・・・7位の・・・に、西村・・・七海です・・・え、え・・・と、その、頑張ります・・」
それだけ言ってあとは黙り込んでしまった。そして岡本監督がマイクを持った。そして、開口一番にこう言った。
「ええ、それぞれが色々と意気込みを語ってくれましたが、一つ訂正しなければなりません。小林君」
集まった記者団、中村オーナー、そして呼ばれた小林すらきょとんとするなか、岡本監督は普段は見せない薄ら笑みを浮かべながら言った。
「小林君。君はキャッチャーで頑張ろうとしていますが、私は君をキャッチャーで使うつもりはありませんよ」
「はあっ!?」
岡本監督の発言に、小林は声を荒げて立ち上がる。
「ちょっと待てよ。あんた言ったよな。『ロイヤルズは佐藤以外軸となれる打者がいないので、中軸を打てる選手に育成する』って」
「ええ。ですが『正捕手』とは言ってませんよ」
さらりと悪びれなく言い切った岡本監督に、小林は激昂した。
「っざけんなジジィっ!俺がどれだけキャッチャーにこだわってるのか知ってるだろっ!!」
「ええ。大学時代もキャッチャーにこだわりも持って、何回もコンバートの話を断ったと聞きました」
「だったら」
「ですが、外野に移れば、このまま捕手を続けるよりももっと、大成する選手になります。今からでも遅くはありません」
続けられた言葉に、小林は一瞬表情を変える。
「君ほどの打撃力と肩力のある選手をキャッチャーに収めておくのは実に惜しい。その才能は外野で輝くべきです。2000安打と400本塁打、メジャー挑戦の栄誉が君には待っています」
かなり嘘臭い説得だが、岡本監督はすべての文言を真顔で言い切る。小林は矛を収めて改めて尋ねた。
「俺は外野で化けれるんだな」
「あなたの努力次第ですがね。ただ、それだけの才能であるという確証をしなければ、将来のメジャー移籍を容認しませんよ」
「・・・わかった。今はとりあえずあんたを信じてやる」
そう言って小林は着席した。気を取り直して岡本監督は再び報道陣に言った。
「さて、今回指名したこの7人は、全員私が説得しました。私自身の長年の経験と勘でプロで通用するだろう選手を獲得しましたので、7人全員が戦力であります」
そう言いながら記者たちを見渡しながら釘を指した。
「よって、6位以下の2人には下世話な質問は控えていただきたい。まずはあなた方が彼女らに対する偏見を外してからです」
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