第1286話 たまには童心に帰るのも大事だよね。的なお話

ちょっとした疑問も解消されてスッキリしたところで、運動でもしますかね。

このメンツなら演舞をすると考える所だけど、あれは英雄演舞だけの、英雄演舞の為のものだ。

だからここでやるわけにはいかない。

となればまあ、模擬戦となるよな。

ヒサギさんが戦えるかは分からないけど、まあ、軽く武器を合わせるだけでもいいだろう。


「それは棒術……いや、杖術か?」

「昨日久しぶりに振ったら楽しくなっちゃってね。だから今日もこれを使おうと思ったんだよ。」

「そうか。」


戦闘時にはヘビィメタルビートルだっけ? の角を使った奴だけど、訓練では未だにこのヒノキの棒を使ってる。

いやー、流石が定番の奴。

丈夫だねぇ。

実は不壊属性付いてるなんて言われても納得出来そうな頑丈さだ。


「よし。準備運動終了。さて、誰からやる?」

「じゃあ僕が。」

「分かった。」


最初はアルフレッドか。

アルフレッドは片手剣を使うようで、そこに盾も付けてのスタンダードなタイプのようだ。

ふむ。

盾ありね。


「では私が審判をやらせてもらおう。負けを認めるか有効打を一本入れるかで勝敗を決める。それでは、始め!」


有効打か。

このタイプはあまりやらないからちょっとだけ怖いが、まあ、当たらなければ問題はない。


太刀のように振り、槍のように突き、薙刀のように払う。

ただそれだけじゃなくて足元への攻撃をしたかと思えば一回転しながら背中越しでの突き、そこから斬り上げのように振り上げ、更には武器だけではなく徒手空拳も混ぜていく。

正に千変の名の通りに様々な変化をさせていく。

その千変する様にアルフレッドは防戦一方だ。


「へぇ。良く防ぐじゃん。」

「こっちだって、場数踏んでるんでね!」


苦し紛れの薙ぎ払いを受け止め、そして杖を巻くようにして腕に這わせアルフレッドの手から武器を弾き飛ばす。

そのまま振り下ろして肩に軽く一撃。


「そこまで!」


やっぱり、俺は杖術の方が向いてる気がする。

剣術に比べて杖術の方がスキルレベルの伸びがいい。

それは素質の差なんだろうなぁ。

なんか複雑。

でも使いたいのは剣なのでこれからもメインは剣で戦うけど。


「じゃあ、次はヒサギさんやろうか。」

「休まなくて大丈夫か?」

「これくらい余裕だって。もっと辛い戦いをした事あるし。」


うん。

本当にね。

あのダンジョンのあのドラゴン戦は酷かった。

辛いというよりももう酷いとしか言えない。

精神を強制的に折ってくるし渾身の一撃は全然効きゃしない。

怒りで我を忘れても何をしても通用しなかった。

でもその戦いはただの茶番だった。

なんかもうね、あれ以上に酷い戦いはまず無いんじゃないかってそう思える。

それに比べたら少しばかり模擬戦を連戦するくらいどうって事ない。


「では、参る!」


ヒサギさんが使うのは大剣。

木製とはいえ、その重量から繰り出される一撃はこのヒノキの棒では耐えられないだろう。

耐えられないよね?

いやまあ、せっかく1番最初にもらった武器? だしわざわざ折れる危険性のある事をする必要はないだろう。

ともにま受けられないのなら、まともに受けなければいいだけの話。


杖を使って棒高跳びのように跳び上がり、そしてその跳び上がる勢いを利用してヒノキの棒を高く空に放り投げる。

突然の奇行にヒサギさんは空を見上げて唖然とする。


俺が着地する頃には気を取り直すが、俺は俺で低空ジャンプで反対側、つまりは元いた場所に戻る。

慌てた様子で振り返った所にネコだまし。

反射的に目を瞑った所でヒサギさんの手を掴んで投げる。

地面に叩きつけた所で落ちてくるヒノキの棒をキャッチして、意味もないけど決めポーズ。

投げた時点で俺の勝ちだからね。

なら後はカッコよく決めたいじゃない?


「2連勝〜。」

「ぬぅ……ここまで調子に乗られるのは少し面白くないな。」

「そうだね。何がなんでも勝ちたくなってくるね。」

「へへ。かかってくるがいい。相手してあげようじゃないか。」

「なら、お言葉に甘えて!」

「おっと!」


結局日が暮れるまで模擬戦という名の遊びをしていた。

なんか精神面が幼くなってる気がするけど、まあいいか。

たまには童心に帰るのも大事だよね。

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