第1285話 納得の理由だ。的なお話

「実は僕、ホムラ家で雇われることになったんだ。」

「はい? なんで?」

「あー、えっと、後夜祭の時にホムラの人達と会ったじゃない?」

「ああ、俺が無理やり合わせた時だな。」

「まあ、そうなんだけどね……。その時に立場的な問題を言われてさ。ほら、僕って元々は孤児だっただろ? それに対してアザミさんは大名の娘なわけで……」

「あー、なるほど。そういう事ね。」


立場というか出生の差から釣り合わないとされたのか。

まあ、どこの誰とも知れない孤児と、五等とはいえ大名の娘だ。

世間体とかもあるし認めるのも難しいんだろう。

だが雇ったという事はアルフレッド自体には特に拒絶はしなかったという事でもあるはずだ。

だから雇ったわけだし。

そうして雇った後家臣団とか親族なんかの周りを納得させるだけの何かを成し遂げた後にはアザミを娶るのを認めるつもりなんだろう。


「それで、どういう役職になったんだ?」

「あー、とりあえず領軍に組み込まれて、そこで色々勉強しながら訓練していく形になった。」

「そっか。おめでとう。」

「ありがとう。」

「とりあえず一歩前進ってところか?」

「そうだね。後は頑張り次第だって言われたよ。」

「それなら今後はヤマトで過ごすことになるということか。何かあれば手助けできる事もあろう。その時は遠慮なく頼ってくれ。」

「うん。そうさせてもらうよ。」


いい方向に向かって良かった良かった。

話もひと段落ついたという事でお祝いがてらこの喫茶店で食事をすることになった。

支払いは俺とヒサギさんがアルフレッドの分も出す。


「こ、これはどのようにして食べればよいのだ?」

「それはこれで切って、そんで耳……えーと、箸の部分を持って食べるんだよ。」


ヒサギさんがピザを頼んでおきながら食べ方が分からないなんていう一幕もありつつも食事は和やかに進み、食後のお茶をまったりと楽しんでいるところにこんな声が聞こえてきた。


「あそこの3人、良くない?」

「うんうん。あの銀髪の子とか優しそうだしいいよね。」

「私は断然あの茶髪君かな。」

「じゃあ私はあの黒髪の人かな。」

「ねぇ、どうする? 誰が声かける?」


逆ナンされそうだし、とっととここを立ち去ったほうがいいかな。

女性3人組から逃げるように店を後にして人混みの中に紛れる。

追いかけられても面倒だしね。


「まさか、あのように見られるとは……一応私にも婚約者がいるのだがな。」

「「え!?」」

「む? 何だその反応は?」

「ああ、いや、だってなぁ?」

「うん。今まで一度もそんな話を聞かなかったから。」

「聞かれなかったからな。」


まさかヒサギさんにもそういう人がいるなんてな。

驚きしかない。


「えっと、それでこれからどうする?」

「ちょっと腹ごなしも兼ねて軽く運動していく?」

「いいけど、どこで?」

「ギルドの訓練場。」


というわけでやって来ました、冒険者ギルド。

お昼過ぎてるとはいえ、昨日とは違って人も少なく過ごしやすい……筈なんだけど……なんだろうなこの雰囲気は。

あ、昨日の人発見。

ちょっと聞いてみよう。


「えっと、なんかギルド内の雰囲気変なんですけど、何かあったんですか?」

「先日見つかったダンジョンの調査を行っているのでその結果で今後どうするか考える必要があるから皆さんそれを気にしているんですよ。」

「調査って……あー。昨日のはそういう事か。」

「はい。」


つまり昨日人が多かったのは調査する人たちが集まってたからって事ね。

訓練場が使えなかったのはそれだけ人を集めていたか、あるいは必要物資をそこに置いていたかかな。


「それならなんで俺達は呼ばれなかったんですか?」

「そりゃ、英雄役の人を危険な所に送り出すわけないじゃないですか。何かあったら国中が敵に回っちゃいますよ。」

「あ、そうですか……。」


相変わらず凄いな英雄役のネームバリュー。


「あの、レントは見ての通り変装しているのにどうして分かったんですか?」

「あ、そういえば昨日も声を掛けようとしてくれていたみたいでしたけど、よく分かりましたね。」

「それはパーティメンバーが一緒でしたからね。分かりますよ。」


あー。

何度かギルドに顔を出した事あったな。

その時は変装してなかったし、パーティメンバーが一緒で英雄役なんていつ尚且つ目立つ事してたらそりゃ覚えるわな。

納得の理由だ。

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