第1265話 ちょっと落ち着こう? 的なお話
武闘大会が終わったが、会場を出るのはもう少しだけ後にする。
今外に出ると他の客が沢山いて混雑しているだろうし、そんな中で俺が出ていってしまうと更なる混雑になる可能性がある。
いや、変装をすれば大丈夫か?
でも面倒だなぁ。
人いっぱいの中に入っていくと逸れる可能性もあるし。
というわけでもうちょっとだけここに居よう。
「まだ居ましたか。」
「なんでここに!?」
そう思っていたら何故かシジマさんがやって来た。
いや本当に、なんでここに来たんだよ?
それにどうして場所が分かったんだ?
「そりゃ、英雄役なんていう大物が通される場所なんて考えればすぐに分かりますよ。これでもそれなりの役職に就かせてもらっていますので。」
「そうですか。それで何の用ですか?」
「何、少しばかり手合わせをしてみたいと思っていたのですがな、これはちょっと無理そうですなぁ。」
部屋の中を見て、そしてすぐに遠い目をしだした。
なんなんだ一体?
いやまあ、デート中なんで戦わずに済むならこっちとしてもありがたいけどさ。
俺は別に戦うのが好きってわけじゃないしな。
嫌いでもないけど。
「すみません。どうやら邪魔をしてしまったようですな。今の発言は忘れてくだされ。では私はこれで。」
そう言うとシジマさんは去って行った。
本当になんなんだろうな。
俺なんかと戦ってなんにもならないだろうし、目的がいまいち分からない。
本人曰くそれなりの役職に就いてるらしいが、それと何か関係が……?
ま、いいや。
考えても答えなんて出ないし、自分の中で答えが出たところで正解が分からない以上考えたところで無駄でしかないし。
「予想外の珍客はあったけど、そろそろ他の客も大体捌けただろうし。」
「それでこれからどうするの?」
「宿に帰ろうかなって思ってますけど、何か希望とかありますか?」
「もう帰るの!?」
「もう結構いい時間ですし。」
「え、あ、本当だ。」
今は5時少し前。
宿への移動時間とかも考えれば丁度いいくらいじゃないかな。
「まあ、帰る途中で気になる屋台とかあったら寄るつもりではいますけど、それでどうですかね?」
「んー、まあ、それでいいかな。」
「みんなはどうかな?」
「ま、それでいいんじゃない。」
「妥当な所ね。」
特に反対意見も無いみたいなのでそういうことで。
入る時の道を逆に行くだけだから今回は迷わずに外に出る事が出来た。
当然だけど。
宿へと帰る道中で気になる屋台に寄ると言ったからなのか、みんながそれぞれあそこ行きたい、あれが見たい、ここ寄っていい? なんて言ってきたりしてなかなか進まない。
リリンが何やらこけしを買ってきたが、俺は知らないぞ。
裏面についたスイッチなんて見てないからな。
頭の部分が少々不安定だけど気にしないったら気にしない。
試運転とかしてるけど、きっとただのマッサージ機だ。
そうに違いない!
そして宿に着いた頃には陽が完全に沈んでいる。
まあ、結構寄り道したしな。
でも楽しかった。
宿に帰ったら人混みに塗れて汚れた体を風呂で清め、豪勢な食事を堪能する。
屋台のあれこれももちろん美味しいんだけど、やっぱりこういう贅を凝らした料理というのも素晴らしい。
食材も高級品ばかりなんだろうな。
一月以上経つのに全然飽きる気配がない。
本当に素晴らしいの一言に尽きるよ。
食事も堪能したし、後は寝るだけだな。
「レント、埋め合わせ。」
あー、はいはい。
そうでしたね。
そんな話してましたね。
瞳がギンギラギンでさりげなくない。
何人か息荒いよ。
ちょっと落ち着こう?
その首輪はどうするつもり……って、あ、自分に付けるのね。
ワンワンじゃないから。
かわいいけども!
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