第1244話 備えあれば憂いなしってね。的なお話

「さて、じきに暗くなるであろうしそろそろ帰るとしようかの。」

「ああ、そうだな……。」

「そんな不貞腐れるでない。妾は手加減せず本気でやった。そして負けた。それだけじゃ。それはこれまでもそうで、お主もそうであろう?」

「まあ、そうだけど……。」

「ならば不貞腐れる理由がどこにある? お互いが真面目にやってそれで勝った者がいて負けたものがおる。それだけの話よ。」

「……そうだな。」


最後のチョイスに忖度というかせめて最後くらいは勝たせようという思いがあったかもしれないが、それはそれ。

手加減されたわけじゃないんだから不貞腐れるほどのことじゃないよな。

というか、そういう子供っぽい所は最近無くなったと思ってたんだけど、俺もまだまだだな。


「それで、どこまで送ればいい?」

「なんじゃ? 送ってくれるのか?」

「ま、暗くなるし女の子を1人で帰らせるのもな。」


女の子を1人で帰らせるのは男の沽券にかかわるって、よく漫画とかで見るからな。

意味はなんとなくでしか分かってない。

それに、こんなでも一応この国のトップ。

何かあったらマジで俺の首が飛ぶ。

リアルに飛ぶ。

実際は神様だから何かある筈もないけど、それでももしも、万が一ということがあるし用心するに越したことはない。


「で、どこまで送ればいい? 役所か? それとも城か?」

「では折角じゃし城まで頼むとしようかの。」

「了解。」


というわけでお城までエスコートしていく。


「そういえば、明日の武闘大会ってやっぱりチケットとかないと観れないかな?」

「なんじゃ急に? 明日行くのか?」

「いや、そんな予定はないけど、もしかしたら観に行こうってなるかもしれないなって思ってさ。」

「つまり、融通して欲しいと、そういう事じゃな?」

「ま、まあ、端的に言えばそうなる……。ほ、ほら、俺の母さんも使えるものは親でも使えって……。」

「いや、それは言ってなかったのであろう? ……まあ、それくらいなんの問題もないがな。元々、冒険者などが英雄役として選ばれるのは想定してあるのでな。そうなるとこういう企画に食いつくのは予想出来た故、役所に言えば融通を利かせてくれるようにしておった。席も専用の場所が用意してあるが……一応念の為一筆書いておくかの。それで、何人が観るのじゃ?」

「えーと……一応コハルさんも入れて14人かな。」

「じゅっ……!? お、多いの……。」


まあ、あくまでも一応で全員として数えたからで実際はもっと少ないだろ。

コハルさんだって知り合いとかいるかもだし。

それにいくらなんでもデートについて来るほど野暮じゃ……野暮じゃ……やべぇ。

完全に否定しきれないや。

ま、まあ、その為に最大数で言ったんだしな、うん。

大丈夫大丈夫。

最悪なんの関係もない屋台で2時間くらい並んでてもらうから。

好きに使っていいって言われてるし、大丈夫な筈だよ。


「ほれ、書けたぞ。それを見せれば問題なく全員入れるじゃろうて。」

「ありがとう。助かるよ。」

「ま、今日の礼じゃ。では明後日にな。」

「明後日!?」

「明後日は演舞があるじゃろうが。」

「え、あ、うん。そうだったな。じゃあ、またな。」


ビックリした……。

明後日も遊びに行くぞって意味かと思っちゃったよ。

でもそうじゃなくてよかった。

流石に祭り期間の3日中2日も嫁さん恋人以外と遊びに行くのはどうかと思うし、本当に良かった。


まあ、何はともあれいい手土産ができたな。

明日になってみないと使うかどうかは分からないけど、昔の人も言っていた。

備えあれば憂いなしってね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る