第1223話 早速街に繰り出すとしますか。的なお話

結局昨晩はユキノには聞くことができなかった。

それを聞いたとして、もしも別れることになった場合演舞に影響しそうだし……何より知りたくなかったから。

知らなければ、希望が持てるから。

知らなければ、自分の中の理想を信じていられるから。

そんな自分本位な考えと一緒にユキノの事を頭の隅っこに追いやる。

それよりも、今は今日これからのことを考えよう。


「今日はどうする?」

「今日は休みなんだっけ?」

「そう。明日は祭り初日だからその始まりの挨拶と、各大名との面会。後は大名達の前で演舞をしたらその日は終了。2日目は何も無くて、3日目は祭りの終わりに演舞だけ。その後は後夜祭と打ち上げだな。」

「じゃあ今日は何もないんだよね?」

「ああ。」

「それじゃあ、街を見て回る? 今日は祭り前日ということもあってすでに街は活気付いているよ? 前夜祭……じゃないか。前日祭? みたいな感じになってるよ。」

「んー……そうだな。せっかくの祭りなのに宿でのんびり過ごすのもどうかと思うし。」

「そう言うと思ったよ。だから……はいこれ!」

「何これ?」

「カツラと眼鏡だよ。」

「いや、それは分かるんだけど、なんでって話で……。」

「だって、レント今すっごい有名になってるんだよ? 気付いてない?」

「は? 俺が? なんで!?」

「いやいや、この国にとって大事な祭りのメインイベントの主役やるんだよ? そりゃ有名にもなるわよ。それに、既にあんたのグッズ色々売られているわよ?」

「マジで!? ってか肖像権の侵害!」

「異世界にそんな概念無いわよ。」

「今そんな事になってんのかよ……。」


そんな情報が齎されたたらカツラと眼鏡をつけるのに文句を言えるわけもなく……というか、進んで被るわ。

にしても、全然気付かなかったぞ。

うーむ、やはりいつも同じ道だけ通って道場に行っていたのが不味かったかな?

別の道を通ってたら気付けた筈だ。


「へー、その髪の色も似合うじゃない。」

「そうかぁ……?」


鏡で自分を見てみるが、違和感が半端じゃない。

だから似合ってると言われてもそうは思えないんだよな。

しかし、異世界のカツラはゴワゴワしてて被りづらいな。

いや、地球のカツラも被った事ないけどさ。


とはいえ、これだけじゃカツラだと分かりやすい気がするし、帽子でも被るか。

後は眼鏡を掛けて……。

うーむ。

鏡に映るのが自分とは思えないからやっぱり違和感しかないが、逆にいえばそれだけいつもとは違っているということでもある。

目立つというほどではないが、髪だけでもかなり印象が変わるしこの国では珍しい黒髪黒目が銀髪に変われば多分バレないだろう。

似合うかは知らないけど。


「レント。」

「リリン……それは何かな?」

「耳と尻尾。種族も変えれば、絶対バレない。」


それはまあ分かるよ。

でも、そうじゃない。

俺が言いたいのはそうじゃないんだ!

なんで、なんでこの尻尾には数珠状の突起物が付いているのかって事だよ!


「間違えた。こっち。さっきのは夜用。」


夜用って、俺は使わないからな!?


さっきの突起物付きの方のが気になって仕方ないので耳と尻尾は付けずにカツラ帽子眼鏡だけで変装する事にした。


「絶対似合うのに……。」


リリンの呟きは聞かなかった事にしよう。

尻尾を見るたびにさっきの突起物が頭をチラつきそうだし。


「アンタ誰!?」

「俺だよ俺。」

「なんだ、風見か……。その格好は街で有名になったから変装のためってわけね。」

「そうだ。」

「まるで芸能人ね。」

「ほっとけ。」


とまあ、幼馴染みである蒼井でも分からなかったので変装自体は問題ない事を確認出来たし、早速街に繰り出すとしますか。

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