第1117話 ユキノがいてくれて助かった。的なお話
お互いに木刀を持って向き合う。
「まずは軽く打ち合う所から始めようか。」
「私はレントに合わせるよ。」
「すまんな。」
「気にするな。私が巻き込んだわけだからな。」
ガッ、ガッ、ガッと木と木がぶつかる音が鳴り響く。
やっぱりどこの国の冒険者も訓練とかはあまり好きじゃないのだろう。
訓練場を利用しているのは俺とユキノだけだったので、なんだか少し物悲しいものがあるな。
聞こえる音が、木刀がぶつかる音と足音と息遣いだけなんだから。
「そろそろギア上げてくぞ。」
「そうだな。」
これまでは軽くだったが、ここからはちょっと本気出していく。
「疾っ!」
バックステップでユキノが離れた直後に手裏剣 (木製)が投げられる。
「せいっ! はっ!」
「やはりこの程度じゃ躱されるか。」
「そりゃな。」
投げた手裏剣と同時にユキノが足元に潜り込んできたが、それくらいは読めるさ。
手裏剣じゃあ致命傷にはなりにくく、手裏剣で倒すとしたら急所を狙うか毒を塗るかしないといけない。
しかし今回のは毒どころか本物ですらないのだ。
となると牽制目的でしか使われないだろう。
そこまで分かってれば手裏剣を弾きつつユキノの攻撃を躱すくらいわけない。
「ならば、これならどうだ?」
ユキノが増えた。
やっぱり凄い!
俺も覚えたい!
「「「では、行くぞ。」」」
影分身で増えたユキノが本体と共に一斉に襲ってくる。
それらを打ち倒し、蹴飛ばし、躱し、薙ぎ払い、一体一体きっちりと対処していく。
やはり影分身だからなのか能力が本体よりも少し劣る。
それに、思考能力がないのか攻撃に対処するのが楽だ。
物量は凄いけど、それだけだ。
ある一定以上の実力者を相手にするのなら、ユキノ自身の能力を上げて相対的に影分身の能力を上げるか、もっと分身の数を増やすかしないとダメだろう。
「そこだ!」
「うおっ!?」
考えを改める。
影分身自体は確かに能力が低い。
だが、本体であるユキノ自身が分身に能力を寄せる事で影分身に紛れ、油断した所を狙ってくるとは……。
突然本気の攻撃が飛んでくるのだから対処しにくい。
しかも周りにはうぞうぞとユキノの分身がいるのだから尚見辛い。
これが狙いだったのか。
分身をきっちり対処してたのが良かった。
じゃなきゃ気付けずに攻撃をくらっていた可能性がある。
「今度はこっちから行くぞ!」
「来い!」
影分身と本体を見極められる唯一のポイント、それは影の有無。
分身自体が影だからなのか、分身には影がない。
だから、影のある本体を見つける為に跳び上がる。
ただ跳び上がるだけだといい的だから上から投げナイフ (木製)の乱れ打ちをする。
ナイフを躱され、あるいは外れた分身とユキノが投げてきた苦無が飛んでくるので、苦無は弾き、分身は足場にして地面に着地する。
本体の位置は見つけた。
後は真っ直ぐ突き進むのみ。
最近は体の調子が良い気がする。
これまでだったらユキノにはスピードだけは負けていたけど、そのスピードでも互角……いや、若干上かもしれない。
分身を蹴散らした後、足で翻弄しようとするユキノに追いつく事ができたんだから。
「くっ! 加速!」
そう思っていたらユキノが加速スキルを使ってきた。
いつの間にそんなスキルを……?
これで再びユキノの方が速くなった。
そしてそのまま決めに来たのか急接近してくる。
加速スキルはそこまで長い時間使用してられないという制限がある。
あくまでも一時的に速くなるだけだからな。
ここは、アレを用意して……。
バックステップで距離を取るが、向こうのほうが速いので当然距離は詰められる。
バックステップから突然急接近をしてみるも、思考能力と反射神経も速くなっているのか、逆に離れられる。
だが、これでいい。
攻撃後の隙を狙って来たので木刀で防御をするが、攻撃はフェイントのようでユキノは側面に回り攻撃を仕掛けてくる。
……うん。
知ってた。
ユキノの戦闘スタイルから言って、こんな分かりやすく真正面から来るとは思ってなかった。
事前に準備していた魔力障壁を纏わせた手で木刀を掴み、そして驚いていたところにこちらの木刀を首元に突きつける。
「俺の勝ち。」
「やはりまだ勝てなかったか。」
「いやー、最後のは危なかったよ。ユキノの戦闘スタイルを知ってなかったら多分負けてたよ。」
「そうだといいがな。」
軽く体も動かせたし、そろそろ帰ろうかな。
何か忘れてる気がしないでもないけど……まあ、いいか。
その内思い出すだろう。
「いや帰るな。まだ買取の査定が残っているだろうが。」
「あ、忘れてた。」
ユキノに言われなかった多分ずっと忘れてたと思う。
ユキノがいてくれて助かった。
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