第1113話 ……全然大丈夫じゃなかった。的なお話

宿の中に戻り部屋に向かう。

この格好で街中を歩くのもやってみたいし、それもいいとは思うけど、京に着いたのはお昼過ぎてたしそれからも色々あって今は5時過ぎた頃。

なのでこんな時間から出かけるというのもちょっとね。

どこか街中で夕食を取るのならそれでいいかもしれないけど、せっかくお高い宿なんで可能な限り宿で食べたい。

それにタダだし。


というわけで部屋に向かっているわけなのだが、宿の中に入った場所が出た場所と少し違うからちょっとだけ道に迷う。

ちょっとだけだよ?


その迷った時間が良かった。

簡単な売店を発見。

おまんじゅうやおせんべいといった分かりやすい土産物なんかは無いけど、その代わりにちょっとお高いお酒やつまみとかになりそうな食べ物なんかを売っている。

従業員を呼び出すベルを使えば普通に持って来てくれそうだから、多分ここのはスイートルーム的な部屋に止まっていない人用なんだろう。

まあ、買うけど。

自分で選べるのがいい。


「うーん、ルナに何か買いたいんだけど、何がいいかな?」

「なんでもいいんじゃない? あ、でもあの子トマトが苦手だからそれは避けた方がいいわね。」

「そんなの分かってるって。うーん……ルナはこれといって好きな食べ物とか無いんだよなぁ。」

「一応あるにはあるけど、どう頑張っても用意できないわよ?」

「そうなのか?」

「あの子が好きなのは母親の手料理だそうよ。」

「そりゃ無理だ。」


母親の手料理か……そういえば俺はもう一生食えないんだな……。

こんな事になるとは思わなかったけど、どうせこんな事になるならもっとちゃんと食べとけば良かった。

またこれ〜って、文句なんか言うんじゃなくてさ。


「まあ、美味しそうなのを適当に……お、これなんか良さそうだな。」


いくつか買ってから部屋に戻る。

すると驚く事に宿の浴衣に着替えていたルナがいた。

え、なんで?


「それ、どうしたの?」

「えっと、実はみんなが、出て行った後、宿の人が来て、それで、浴衣のサイズを、調整してくれたの。」

「そうか。俺がなんとかしたかったんだけどな……ちょっと残念。」

「その気持ちだけで、嬉しいよ。」

「そう? と、そうだ。さっき簡単な売店を見つけてな、そこでいろいろ買ってきたから後で一緒に食べようぜ。」

「うん。」


そして部屋でのんびりと過ごしていると仲居さんがやって来た。


「お夕食ですけど、何時ごろお持ちいたしましょうか?」

「そうですね……では7時頃にお願いします。」

「かしこまりました。それと、既に大浴場の利用時間となっておりますので、興味があれば是非お使いください。」

「分かりました。」


仲居さんをそう言うと部屋を去っていった。


「だってさ。どうする?」

「とりあえず今日は部屋に着いているお風呂にしようかなって思ってる。身体を拭いていたとはいえ、大浴場を使うのは流石に申し訳ない気がするし。」

「そう? じゃあ僕もそうしようかな。」

「あくまでも俺がそう思ってるだけだから行きたい人は言って来ていいよ。」


というわけで早速入浴する。

さっき言った理由だけど、実はただの口実でしかなく本命は別にある。

口実とはいえ、一応は気を使ってというのもちゃんとあるけど、それはあくまでもおまけだ。

こうして部屋についているお風呂を使うといえば、一緒に入ろうとしてくるのは予想済み。

そして目の前に餌がぶら下がっていて食いつかないセフィア達じゃない。

ずっとお預けされていたしめっちゃ食いついた。


今の内に発散させとかないと、今夜はゆっくり眠れないと思うから。

明日は祭りの使者さんが来るのにそんな事で寝坊するわけにもいかないからな。

デバガメというか、コハルさん対策に魔道具もちゃんと使ってる。

これが無いと多分気付かれて除かれるだろうから。


お風呂を出た頃にはいつの間にかスズランさんが居なくなっていた。

きっと帰ったんだろう。

流石に夕食までご馳走になる程図々しくはなかったようだ。

その夕食はなんかどこどこの高級食材がどうのと説明されたけど、ヤマトの地理とか知らないからいまいちピンと来ない。

幾つか聞いたこともない食材もあったしね。

でもそんなのどうでも良くなるくらいには美味しくて大満足だった。


後は寝るだけだが、さっき少しばかり発散させたから大丈夫だろう。

大丈夫だよね?

これまでずっとお預けだったけど、きっと大丈夫なはずだ。


……全然大丈夫じゃなかった。

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