第1095話 今日はついてないな。的なお話

この街は宿に泊まるだけだったからしっかりと見てなかったけど……なんか、普通だな。

いや、目立つ何かがある街の方が珍しいか。


「そういえばこの街の名前ってなんですか?」

「この街の名前はスオウと言います。」

「スオウですか。という事はフミカゲ様……でしたっけ? 大名様もスオウ姓という事ですか?」

「はい。フミカゲ・スオウ様です。やはり六等大名だと名前は知られてはいませんよね……。」

「ああ、いえ、そういうつもりで言ったわけじゃないです。私達は基本よそ者ばかりですから知る機会が無かっただけですので……。」

「あ、気にしないでください。周りからもあまり目立たないと言われてますから。大名としては優秀なんですけど、影が薄いと言いますか、あまり目立たない人なんですよね。本当にいい人なんですけど。」

「あ、そうなんですか……。」


まあ、簡単に頭を下げられるというのは人としてまともではあるよな。

大名というか貴族だとプライドが邪魔をして簡単に頭を下げられないっていう話はよくあるけど、そうじゃないんだから。

少なくとも貴族以外は人とも思わないような屑じゃないという事だけは分かった。


「そういえば、この街って工芸品を売っている店が多いですね。」


街の中を歩いていると露店や店舗でも土産物や工芸品、民芸品なんかが多く見られる。

これがこの街の特色なのかな?


「ああ、この街は交易路の中にある街ですから普通の街よりも財政的に潤っているんですよ。商人がよく行き交いますからね。その関係で街の人も生活が安定し余裕が出てきます。そして余裕が出た人が趣味や小遣い稼ぎでああいう物を作ったりしてるんですよ。」

「小遣い稼ぎ?」

「はい。立地的にも特産品がありませんでしたから、そこでフミカゲ様の先代様が無いなら作ればいいと言って推奨したのがきっかけで、いつの間にかこうして街に溢れかえるようになったんです。最近では土産物といえばスオウって言われてるんですよ。」

「へー、そうなんですか。」


町おこしにゆるキャラを作るみたいな感じなのかな?

実際は宿場街としてだけではなく、より活気を持つようにと試行錯誤した結果なんだろうけど。

交易路の中にある街だから宿泊だけでもお金を落としてくれるけど、そこから更にお金を得ようとしたら何かを売るしか無い。

でも畑とか海とか、そういうのが無かったから作るよう推奨したって事かね。


そういう事なら何か買うのもいいかもな。


「ど、泥棒ーーー!!」


そう思った矢先に事件です。

なんで今日に限って問題がこんなに起こるんだよ!?


「どけどけーー!」


ったく……めんどくさいなあ、もう。


「よっと。」

「あがっ!」


ぶつからないようにまず泥棒の前から退きます。

そして通り道を作った所で横からラリアットの要領で腕を出してやればこの通り、自分から腕にぶつかりにきてくれます。

後は上から押さえつければオッケー。

簡単な泥棒の捕まえ方ってね。

まあ、ステータスの関係で簡単に出来るってだけなんだけど。

多分日本にいた頃だったら無理だろうなぁ。

やろうと思っても上手くタイミングを合わせられるとは限らないし、肉体的強度の問題もある。

逃走手段としてバイクに乗ってたりするだろうから更に無理。

こっちだと普通に走ってるからね。


「ありがとうございます!」

「いえいえ、人として当然のことをしたまでですよ。」


ぺこぺこと荷物を盗られた人が頭を下げているうちに衛兵……ヤマトなら同心とか言ったりするのかな?

そういう人達がやって来て事情聴取をまた受ける事に。

幸い捕まえただけだし、大名家に仕える女中さんもいた関係で簡単に解放してもらえたけれど、流石にこんなトラブルがあったのに街を歩くというのもね……。

一応護衛依頼を受けてるんだし。

そんなわけでお城へと帰還する事に。

全然思い通りにいかないし、今日はついてないな。

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