第1080話 フラグのない星の元に生まれたのだろう。的なお話

「すいませーん。このお酒、それぞれ5本ずつください。」

「は? え、今なんて言いました?」

「すいませんって。」

「いえ、そこではなく……。」

「それぞれ5本ずつ?」

「そうです。それ、本気で言ってます?」

「本気ですよ。」

「そうなると75本になるのですが……あの、本当にお買いになられるのですか?」

「はい。お土産用ですから。」

「お土産、ですか……? 商売用でもなく?」

「はい。お土産です。」


めっちゃ聞いてくるなこの店員。

いやまあ、いきなり来て75本も買うとか言い出してるんだもの。

そりゃ気にはなるか。

俺だって普段ならこんなにたくさん買ったりはしない。

飲みきれないし。


「そうですか……えっと、全部で100万を超えますが、本当に大丈夫なんですか?」

「だ、大丈夫です。」


予想以上だった……。

だけど、これくらいならこの前結構稼いだし余裕で払える。

払えるけど……ヤマトでもお仕事探しした方がいいかもなぁ……。

お祭りなわけだし絶対散財する。

間違いない。


「では確かに、それでこちらの商品は配達してもよろしいでしょうか?」

「配達?」

「はい。重量がありますし、お持ち帰りの際に容器が割れたりすることがありますので当店のアイテムバッグで宿泊先やご家庭にお届けするサービスをしています。ご利用になりますか?」

「いえ、アイテムボックス持ちなので自分で持ちますよ。」

「そうですか。」


というやり取りの後商品の引き渡しが行われるけど、店の人は倉庫とカウンターを行ったり来たりしてお酒の容器を次々とカウンターに置いていく。

それを俺はストレージにしまっていくが、結構な時間かかってしまった。

数が数だからね。

でもその所為で店員さんが最後の方では息を上げていたしちょっと悪いことしたかなと思ってしまった。

それがお店側の仕事なんだけど、ここまでだと流石にね。

それとは別に、アイテムバッグで運び出せば良かったんじゃないかな? と思ったのは内緒。

一生懸命にやってくれてたから、なんか、言い出し辛かった。


宿に戻るとすでにみんなは準備完了、いつでも行けますぜ! ってな具合に待ち構えていて、後は俺の準備が出来れば即座に移動開始って感じだ。

迷惑をかけたのは俺なので急いで準備をしてから馬車に乗り込む。

街の中心近くの宿から街の端までおよそ1時間半。

ようやく街を出ることが出来る。


お米が特産だからか、街の中はご飯に合う物ばかり売られていてあちこちからなんともいい香りが漂ってきていた。

だからつい理性を忘れてふらふら〜っと何度も寄ってしまいそうになってしまった。

その都度みんなに抑えられたりしてたから、ようやく誘惑から解放される……。

護衛依頼が無ければ片っ端から立ち寄っていたものを……次来る時はたくさん買い込むとしよう。


「さて、それじゃここからまた街の外だ。気を引き締めて行こう。」


そう、ここからは街の外。

何があるか分からない。

野生動物が現れるならまだしも、野生の魔物や野生の盗賊が現れるかもしれない。

野生の魔物ならよっぽどの相手じゃない限り問題ないだろう。

昨日の赤鬼青鬼のようなヤマト固有の魔物がいるかもしれないが、それくらいなら問題はないはず。

注意すべきなのは魔物よりも盗賊だな。

護衛依頼を受けているという前提での訓練も受けたりしていたから多少は動けるだろうけど、あくまでもあれは訓練。

実際に動けるかは分からない。

それに、魔物と違って思考する相手。

護衛対象を狙ったり、1人を重点的に狙ってきたりするかもしれないので注意が必要。

自分で言った通り、気を引き締めていかないとな。



盛大なフラグを建てたからだろう。

今回も何も無かった。

本当に、何事もなく日が暮れる少し前に次の街にたどり着いた。

ちくせう……やはり神は居なかった。


『いえ、ちゃんと居ますよ。』


あ、聞かれてた。

そうだった。

普通に神様がいる世界だった。


訂正。

俺はフラグのない星の元に生まれたのだろう。

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