第1061話 俺は今、その事を強く感じている。的なお話

ついにやって来たぜ、ヤマト!

降り立って最初に見えたのは何かの倉庫、倉庫、倉庫!

あー……なんか、テンション下がる……。

いやまあ、元々輸送船なんだからこういう倉庫が沢山あるのも何もおかしな事はないし、それに乗らせてもらったわけですからあんまり文句も言えないけど、でもなぁ……。


「どうしたの? そんなあからさまな感じでテンション落として。」

「いやだって、せっかくのヤマトなのに、最初に見た光景がただの倉庫群なんだぞ。そりゃテンションも下がるよ。」

「だが、元々輸送船に乗せてもらったわけだし、それは仕方ないだろう。」

「そうなんだけど……そうなんだけどさぁ……。」

「まあ、しばらく進めば港町だ。楽しみはそれまで取っておいたと思えばよかろう。」

「……そうする。」

「2人もそれで良いな?」

「うん。」

「そうね。」


どうやら期待していたのは俺だけじゃなかったようだ。

というわけでさっさとこの倉庫街から出よう。

ユキノの先導の元、道を進んでいくと壁と門、そしてその近くに建てられた小屋が見えて来る。

関所?

いや、関なんて言うほどのものじゃないし、検問か?


「あれは?」

「ああ、あれは関所だな。指名手配犯が潜り込んだり、犯罪歴がないか調べるのだ。それと同時に、海から魔物が襲ってきた時に街や村に知らせる為の人員を配備しているのだ。どちらかといえば、これが主な目的だな。検問はおまけだ。」


関所で合ってたのか。

しかし、知らせる為の人員って、防衛のための場所じゃないんだね。


「魔物と戦ったりはしないの?」

「海狩人が居るからな。基本は専門家に任せているのだ。それに、勤めているのは大名の臣下で対魔物ではなく対人が専門だからな。」

「ふーん。なるほどねぇ。」


関所には俺達以外の船の乗客が並んでいてしばらく待つ必要がありそうだ。

そう思って列に並ぼうとしたんだけど、ユキノが列を無視してどんどん進んでいく。

あ、ひょっとしてここも優先してもらえるの?


「英雄候補勧誘員のユキノだ。」

「ああ、聞いてるよ。さっきも別の人が通って行ったからね。今回の人は、どうやら連れがいるみたいだ。貴女と彼は問題無いけど、残りの人は一応念のため検査させてもらうよ。」

「分かった。ああ、それと、不埒な事は考えない方がいいぞ。彼は独占欲が強いのでな。変な事をしようものなら悪鬼の如く怒り狂う。」

「それは怖いな……。」


誰が悪鬼だ。

俺は何も悪い事をしてないんだからそこはただの鬼にしてくれ。

独占欲が強いのは最近は自覚してる。


セフィア達の検査も無事に終わり関所を突破する。

関所の先には街道が少しだけあり、その先には町がある。


「さっきはすまないな。お呪いがどの程度まで許すか分からないのでな。最悪の状況にならないよう事前に釘を刺しておきたかったのだ。」

「それはまあ、分かってたけどさ。それにしても、悪鬼は酷くないか? もう少しかっこいい言い方は無かったのか?」

「なら逆にどんなのが良かったのだ?」

「……鬼神とか?」

「大差ないではないか。」

「大分違うだろ。」


鬼神だからといって悪さをしてるとは限らないからな。

その点、悪鬼は名前に悪って書いてあるしあまり良いものって感じはしないからな。


「何はともあれ、ようこそヤマトへ。私達は皆を歓迎しよう。」


一度振り返り、手を広げて言うユキノ。

そのユキノの後ろには街の入り口。

白い壁で覆われた町の入り口からは茶色の家々に、悠然と佇む天守閣を備えた城が見える。

これだよこれこれ!

これこそが、ヤマトの存在を知った時から夢想していた光景!

遂にヤマトに来た。

俺は今、その事を強く感じている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る