第1030話 断罪炎覇を使う余裕が出来たからな。的なお話

「こいつの体毛は金属のように硬い! 普通に攻撃をしてもダメージは通らないから注意が必要だ。それと地面に衝撃を流して岩を隆起させる力を持っているからそれも気をつけてくれ。」

「ん。」

「分かったわ。」


他に何か2人に伝えなきゃいけない事はなかったか?

今はあまり時間がないし手短に簡潔に……そうだ。

普通の銀ゴリよりも身体能力が高い事も伝えておかないと。


「後、単純に速くて強い。」


と言った所で時間切れ。

黒ゴリが待ちきれなくなったようだ。

黒ゴリは両腕を振り上げてそのまま振り下ろす。

すると再び地面を衝撃が伝わってきて岩を隆起してくる。

しかしそれは事前に伝えてあった事もあって2人とも問題なく回避し、俺も先ほどの二の舞にならないように退避済みだ。


揺れがおさまった頃には既に2人は駆け出していて、俺も2人に続いて黒ゴリに接近する。

2人はそれぞれ武器に魔法を纏わせて黒ゴリを攻撃する。


「硬っ……確かにこれは普通に攻撃してたらどうしようもないわね……。」


アカネが愚痴る。

その気持ちも分かるが、そんなことを言っていられないのまた事実だ。

俺達は既に、こいつらの巣をかなり荒らしてしまっている。

ここまでやってしまった以上、ここで撤退なんかしても群れがそのまま街に雪崩れ込んできかねない。

そんな事はさせられない。


「せいっ! はっ! っらぁ!」


真一文字に薙ぎ、蹴り飛ばして体勢を崩させた後、踏み込みの力も加えた渾身の袈裟斬り……手応えあり。

いやまあ、元から手応えの有り無しなんか分からないから攻撃当たったかどうかくらいしか分からないんだけど。

でも、かなりの深傷になったはず。


黒ゴリを見れば左肩から脇腹まで真っ直ぐに深々とした斬り傷が出来ていた。

これなら流石に倒れるだろ。


「ウホォォォォォォォホッホッホッホォォォォ!!!!」


ーードンドンドンドンドンドン!


「え、は、ちょっ、何やってんの!?」


ブシっと血が噴き出すのも構わずにドラミングを繰り返す黒ゴリ。

ていうか、ドラミングって普通パーじゃないの?

グーでやってんだけど?

って、そんな事どうでもいい。

何が起こるのか分からないから注意が必要だ。


そう思って一旦離れて観察していると、噴き出す血が徐々に固まってきて、そのまま黒い刺となる。

それだけじゃない。

毛の一本一本が鋭く立ち、触れたら刺さるようなそんな鋭さを感じさせる。

そして、最後に両拳を地面に叩きつけると砂が腕に纏わりついて籠手となる。

成る程、奥の手って事ね。


ドンッ! って音が聞こえてきそうな速度で接近してくるとそのまま右ストレートを放ってくる。

何かあるかもと警戒していたから不意は突かれていないし、亜種の時のように見て躱すのは流石に無理だが、何かしてくるかもという警戒と、体全体の動きから察知して回避する。

耳元でボッという空気の音が聞こえてくる。

当たったら即アウトだと思った方が良さそうだ。


1番大きなダメージを与えたからか、執拗に狙ってくるな。

とはいえ、躱せない程じゃない。

いつぞやの騎士との経験が生きている。

少し目が慣れてきた。

…………ここ!


タイミングを合わせて腕を切断しようとするが、よっぽど強く圧縮されているのか、砂の籠手が硬く、そして熱に強く多少の時間では焼き斬る事はできない。

ちっ!

こうなりゃ断罪炎覇を使うしかないか?

いやでも、森の中でそれは流石に……。

くそっ!

迷ってる暇はないか。

このままじゃジリ貧になるだけだ。


「リリン!」

「ん。」


リリンに隙を作ってもらおうとしたが、それを察知され一瞬で離れてしまった。

まあいい。

断罪炎覇を使う余裕が出来たからな。

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