第1028話 こいつが強いということだけだ。的なお話

リリンに追いつくぞと、そう決意したのが良かったのだろうか?

なんだか身体が軽く感じる。

意識を切り替えたからそう感じるのかもしれない。


病は気からという言葉がある。

これはつまり、精神は肉体に干渉するということでもある。

今回の事も、プラス方向に意識を変えたからこそ、それが肉体に影響を及ぼして、身体が軽いと感じるようになったのかもしれない。


「ははっ……。」


自然と笑いが溢れる。

それくらい気分がいい。

目の前にいるのはシルバーエイプ亜種。

本来のシルバーエイプはその名の通り銀色の体毛をしているが、こいつは銀色に緑が混ざったような、凄く綺麗な色をしている。

本来のシルバーエイプよりも遥かに速いはずの攻撃を見て・・躱し、折角綺麗な毛皮をしているのだから無駄に傷つけないように気をつけて、加工の際に傷をつけるであろう中央部をバッサリと真っ直ぐに斬る。

もちろんこの程度ではやられてくれないので、更に切り口から頭部に向かうようにして剣を突き入れてとどめを刺す。


「次!」


死体をストレージにしまうとすぐに次の目標に向かって斬りかかる。


しかし、なんだろうな、これ。

なんか、本当に気分がいい。

それによく見える。

身体のキレもこれまでとは違うし、敵の動きも良く見える。

剣も、まるで自分の手のように扱えるような、そんな万能感がある。

これが噂のゾーンに入るという奴なのか。


次の魔物もシルバーエイプ。

適当に進んできただけなのだが、どうやらここはシルバーエイプの巣のようだ。

もしくは猿山?

どちらでもいいか。

とにかくそこら中に銀ゴリが居て、偶に亜種が混ざってる。


「ハッ!」


正面の銀ゴリを斬り捨て、後ろから襲ってきた次の銀ゴリの攻撃を躱しつつ蹴りを入れて体勢を崩させる。

そしてバランスを崩しているところに接近して首を飛ばす。

横から飛びかかってきた銀ゴリは背後からのセフィアの連撃であっという間に沈む。


「サンキュー。」

「どういたしまして。それにしても、数多いね……。」

「どうも巣というか、集落のようなところに入ってしまったみたいだな。全部で100くらいか?」

「分からないけど、多分それくらい?」

「1人10匹だけど、流石に半分も倒せば逃げてくれるよな?」

「おそらくは……。どの道、この数じゃこっちは逃げられそうに無いけどね。」

「でも、こいつらなら多少数が多くても問題はないだろ。」

「それはそうだけ、ど!」


まあ、1人10匹といっても、流石に群の中に個別で突っ込んでも囲まれて危ないので、2人1組となって互いの隙をカバーし合うって形になっている。

10人で囲まれるよりかはある程度包囲が広がって戦いやすくなるんじゃないかなっていう思惑もある。


そうしてセフィアと一緒に戦っている内に数が大分減ってきて、だいたい半分くらいになると周りの銀ゴリも浮き足立ってくる。

そろそろ逃げられるか?


「ウホオオオォォォォォォォォ!!」


そう思っていた矢先、巣の奥の方から大きな叫びが聞こえてきた。

その叫びを聞いた周りの銀ゴリから恐怖が消え、一心不乱に襲い掛かってくる。

ちっ!

ボスが現れて調子乗ってきたか?

いや、この感じ、統率か支配か、どちらにせよ自由意志は奪われているのか。

全く面倒な……。

となれば、ここはそのボスを倒すに限る。

そうすれば支配も解けて周りの銀ゴリも散っていくだろう。


近くにいる銀ゴリを斬り倒し、周りには目もくれずボスの方へと向かう。

ボスも俺達が近づいて来たのを察したのか向こうから歩み寄ってくる。


そのゴリラは茶色でも銀でも、翠銀でもない、メタリックブラックと言うべき、光を反射するような独特の光沢を持つ黒色だった。

更なる上位種なのか、それとも異常種なのかは分からない。

ただ一つはっきりしているのは、こいつが強いということだけだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る