第1019話 何も言ってないというのだから気にしないでおこう。的なお話
昨日の夕食、そして今朝の朝食と和食寄りの料理を堪能して気力は充実している。
今日こそは、今日こそは依頼を達成してみせるぞ!
とはいえ、まずはギルドに向かおう。
昨日上手くいかなかったのは情報が足りていなかったのが原因だ。
それだけが原因ではなく運が悪かったとも思うが、それでも情報が足りていなかったというのは原因の1つであることに間違いはない。
そもそも俺達が探した場所ではクリムゾンベアことくまさんが生息している場所じゃなかった可能性がある。
言ってみれば、海産物を求めて山を登るようなもの。
居もしない場所を探すなど無意味としか言えない行為だ。
昨日探した場所には生息していないとまだ決まったわけじゃないけど。
「昨日の失敗も踏まえて、まずはギルドの資料を閲覧したいのですが可能でしょうか?」
「え……あ、はい。可能です!」
今の「え」はなんだろう?
そんなに変なことを言ったかな?
「それで、どんな資料を求めていますか?」
「えっと、魔物の生息域に関する資料です。……それはそれとして、先程のえはなんなんですか?」
「その、冒険者の方々で資料を見せて欲しいなんて言ってきたのは初めてなので……一応、どなたでも閲覧出来るのですけど、これまでそういうことは無かったので驚いてしまいました。」
「そう、なんですか……。」
なんだろう?
この街……というかこの国の冒険者は馬鹿なのだろうか?
それとも経験則で知っているから資料を借りる必要がないとかそういう理由でもあるのだろうか?
「それでは今お持ちしますね。」
「お願いします。」
受付の人が資料を持ってきてくれるのを持っている間にみんなは新たな依頼を見繕うと言ってクエストボードの方に向かっていってしまった。
えぇ……?
いや、あの、このタイミングで?
もう少し後でもいいんじゃ無いかな?
ほら、今資料を持って来てくれるところだし、それに俺達はこの街に長居するわけじゃ無いからそんなに時間がかかりそうな事は流石に無理だよ……?
「お待たせしました……って、あれ? お仲間の皆さんは?」
「えーと、新しい依頼を見に行っています。」
「そうですか。では、こちらが魔物の生息域に関する資料となっております。それで、資料の閲覧は構いませんが、ギルドの外に持ち出すのはご遠慮ください。」
「はい。」
ギルドの外に持ち出すなんて元から考えていないけど、まあ、必ず言うように言われているんだろうな。
それにしても、このギルドの資料はあまり充実していないんだな。
てっきりもっと分厚い資料の束なりお手製資料本なりを想像していたのに、実物は1センチあるか無いだったぞ。
そういえば、国の面積はそこまで大きく無いとかなんとか言ってたな。
この王都に来るのにそんなに時間かからなかったしこれくらいで十分なのかもしれないな。
「あ、ここに居たんだねレント。」
「ああ。」
ギルド備え付けのテーブルで資料を広げた所でみんなが戻って来た。
しかしその顔は芳しくない。
あんまりいい依頼がなかったのかな?
「どうだった?」
「どうもこうも、昨日と代わり映えなかったわよ。なんなのこれ。」
「それなんだけどな、これを見てくれ。」
「え、薄っ!」
「はっきり言うのな……。まあ、その通りなんだけど。で、これを見て分かる通り、それ程資料は多くない。そして依頼の数が少ないって事とこの国の面積から考えると、グラキアリスに比べて生息している魔物の全体数が劣るんだと思う。それにだ、この国では海狩人という職業もある。だからそっちと冒険者で依頼をする人が二分されるんじゃないかな。食料として依頼するにしても魚と肉で二分されるって感じでさ。」
「その可能性はあるわね……。」
「じゃあ、昨日と同じ感じで依頼を受ける?」
「それでいいんじゃないか。そもそも俺達はもうすぐここを発つんだからそんなにがっつり依頼を受けなくてもいいだろ。」
(あん…が散財した……言うから……利かせてるん……ない……)
「? 蒼井なんか言ったか?」
「別に!」
小声だったから全部は聞き取れなかったな。
ここじゃなければ多分聞こえていたんだけど、蒼井が何も言ってないというのだから気にしないでおこう。
「それじゃ、クリムゾンベアの生息域を調べたら追加で依頼を受けよう。」
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