番外編 ホワイトデーif 未来ver
後10日でホワイトデーか。
昨日は子供達が喜んでくれて良かったが、それはそれ。
意識を切り替えないとな。
子供達からはもちろん、セフィア達からもチョコを貰ったからちゃんとしたものを返したいからね。
「ピュリオス、昨日の今日だけど、気持ちを切り替えてホワイトデーの準備を頑張ろうか。」
「そういえばそうか。雛祭りの方にばかり意識向いてたよ。」
「ピュリオスもピリーナから貰ってただろ?」
「うん。後は母さん達と妹達からもね。」
「だから頑張らないとな。」
「そうなんだけど、毎年となると流石にネタ切れというか、飽きられないかな?」
「あー、いつもマカロンとかキャンディーとかだもんな。」
「うん。だから心配になってきて……。」
「まあ、確かに意味は重要だけど、それよりも大事なのはどんな想いを込めるかじゃないかな。特に意味が含まれてないお菓子とかでもさ、一生懸命作った奴なら大事なもんがちゃんと詰まってるだろうし、それが伝わるはずだ。だから、大事なのは相手の事を思って用意する事なんじゃないかな。と、ここ数年は思うようになった。」
「なるほど……そっか。そうだよね。」
ちなみに俺も同じ事を考えて、その結果そういう考えに至った。
多分そういう意味が付いたのもどっかのお菓子会社とかが商売のネタとして広めたんだろうって考えて、ならばその意味はそこまで価値はないだろうって。
それよりも想いを込めた方がいいってね。
そういえば昔の人はホワイトデーのお返しは3倍返しとか言われてたりしたらしいね。
それは昔の男女平等を謳い始めたものの収入面での差とか漢気とか言って見栄を張ったりしたのがきっかけなんじゃないかな。
いつ広まったのかは知らないけど、どうせマスコミが取り上げたりしたんだろう。
じゃなきゃ広まらない。
当時の人達は可哀想なことで。
こっちにはそういうの無いしね。
まあ、俺としては3倍でもいいんだけど、やっぱり値段よりも想いだよ、想い。
というわけで。
「そんじゃ、早速行こうか、ピュリオス。」
「うん。」
お返しの品の材料を求めて冒険に出かける。
とりあえず今回のお目当ては神樹の周辺に生える深桜樹という花から蜂蜜を作るというパンツァービーネの巣。
そこから深桜樹の蜂蜜を取ることが目的。
神樹は各大陸の中央にある深い森の中に生えているとされてるけど、残念ながらここからだと少しばかり遠く徒歩では無理だ。
なら徒歩じゃなければいいということで、ピュリオスが
こうすればすぐにたどり着けるだろう。
そして2時間後。
深い森の中に一際大きく、そして大きさ以上にその存在感を感じさせる神樹のそばにたどり着くことができた。
後はこの周辺に咲くという深桜樹を見つけ、パンツァービーネの巣を探すだけ。
巣の見つけ方は某農業系アイドルグループが蜂の巣の除去とかもしてたから知っている。
知っていたんだけど……サイズが違う。
餌を用意し、それに夢中になっている間にチラと呼ばれる紙を結びつけて、見失いがちな蜂をチラによって見失う事なく追いかける事が出来るって言ってた気がするけど、蜂がデカいから見失う事は無いだろう。
このチラは……捨てよう。
「あっちに飛んでいくよ。」
「あ、ああ。」
ピュリオスと一緒に蜂を追いかけて、そして、馬鹿でかい巣を発見した。
パッと見ただけてもおそらく10メートルくらいはあるだろう。
それほどの大きさ。
50センチオーバーの働き蜂がいるのだからこれくらい大きくなっても不思議じゃないか。
……これから蜂蜜を取るのか。
骨が折れそうだなぁ。
「お待ち下さい。」
「「誰だ!」」
「私はあなた方がパンツァービーネと呼ぶ種の長を務めているものです。どうか、剣をお納めください、強き者よ。」
そう言いながら巨大な巣から現れたのは蜂人間といった容姿の女性。
その周囲にはデカい蜂が飛んでいる。
もしかしなくても女王蜂なんだろう。
というか、喋れるのかよ!
「あなた方の目的は私共の作る蜜なのでしょう?」
「その通りです、女王陛下。」
「かしこまる必要はありません、強き者よ。私共ではあなた方には勝つことはできない。自然界において強さこそが正義。故に、私共が敬う事はあれど、あなた方がかしこまる必要はないのです。」
「だとしても、女性に対して丁寧に接するのは当然のことでしょう?」
「ふふ、異形である私を女性として扱ってくれるのですね。近衛、蜜をこちらに。」
「よろしいのですか?」
「抵抗したとしても蹂躙されるだけです。ならば潔く渡す以外に生きる道は無いでしょう?」
「ありがとうございます。ですが、タダでというのもどうかと思いますので、こちらをどうぞ。私が作ったアクセサリーです。きっと女王陛下にお似合いになると思います。」
「褒めても何も出ませんよ。ですが、ありがとうございます。どうですか、似合いますか?」
「はい、とっても。」
「ふふ、ありがとうございます。」
「いえ、こちらも素晴らしいものを頂きましたから。では、私達はこれで。」
「あ、その前にお名前をお聞かせください。」
「私はレント。こちらは息子のピュリオスです。」
「レントさん、ピュリオスさん。またいらしてくださいね。次はしっかりとおもてなしさせていただきますから。」
「分かりました。では、また。」
女王蜂さんと別れて帰路に着く。
戦闘する事になると思っていたから、もっと掛かると思っていたけど、そうはならなかったので予定よりも大分早く帰る事ができたのはラッキーだったな。
「父さん、また増やすつもりなの?」
「は? いやいや、そんなつもりないって。でもあんな友好的に接してこられてそれでタダで貰うってのは流石に心苦しいだろ。でも手持ちに花なんて無いから、あれくらいしか渡せなかったんだよ。」
「ふーん。まあ、そういう事にしといてあげる。」
「そういう事も何も、それ以外にないんだが……。」
まあ、確かに美人(?)ではあったよ?
サイズは普通の人と同程度で、蜂の要素を含みつつ人としての美しさも持ち合わせていたし。
でも、流石にそんなつもりはないよ。
というかそんな種族だったのパンツァービーネ。
名前からしてどう考えてもバリッバリの戦闘系種族だろうに、なんであんなのが出てくるの?
そりゃあんな態度にもなるよ。
そんなこんながありつつ無事に帰宅。
後は卵と牛乳と小麦粉、バター、ベーキングパウダーか……。
ベーキングパウダー?
ちょっと待って。
え、ベーキングパウダー?
この世界にそんなものある?
どうすればいいの、ベーキングパウダー。
探せば見つかるのかベーキングパウダー。
無かったらどうしようベーキングパウダー。
……み、見つからなかった時に考えよう。
大丈夫。
俺達には頼れる奴等が昔居た。
きっと奴等がなんとかしてくれてたさ。
◇
そうして、俺達は材料集めを続けた。
卵はサンダーバードの娘さんから貰う。
ピュリオスにアプローチを掛けていたけど当人……いや、当鳥はその事に気付いていなかったけど。
後でピリーナに報告だな。
牛乳とバターは王侯貴族御用達だという牧場から乳搾り体験なんかをしながら譲ってもらい、小麦粉は小麦粉で最高級とされる物を購入。
この辺のは子供達も連れて行きちょっとした社会見学的な意味もあったりする。
ホワイトデーのお返し用の材料だと息子達には伝えておいたので一生懸命乳搾りをしていたのにはホッコリとした。
そして8日経ち、後はベーキングパウダーだけとなったんだけど……やはり見つからない。
探し方が不味かったのかは分からないけど、見つけられなかったよベーキングパウダー。
その事実に俺とピュリオスは頭を抱えている。
「どうするよ父さん。全然見つからないよ。」
「本当にどうしような……。」
「そもそもベーキングパウダーってなんなの?」
「ベーキングパウダーはお菓子作りによく使われる物で主に焼き上げる際に膨らませる用途で使用されてる。」
「膨らませる……それってイーストじゃダメなの?」
「イーストは焼く時じゃなくて、基本的に焼く前に膨らませるんだよ、確か。……でもまあ、仕方ないか。見つからないんだしさ。作る時は生地が膨らむ時間を少し用意しておこう。」
「そうしようか。」
子供達にも分かりやすいレシピの用意をしたり、少なくとも俺達くらいは失敗することはないようにと普通の材料で練習したりして、遂にホワイトデー当日となる。
作る物はホットケーキ。
材料を混ぜて焼くだけという簡単なもの。
だからこそ完璧に仕上げるには技術が問われるものなんだけど、これなら子供達でも楽しく作れるだろうと考えて選んだ。
「さて、それじゃあみんな。これを使って渡す人に向けたメッセージを書こうか。」
「これ何?」
「ふっふっふ……これぞ父さんの自信作食べ文字ペン〜♪ これを使って文字を書いてから少し焼いて、その上に生地を流し込むと文字が書かれたホットケーキが出来るっていう代物なんだよ。あ、文字は反転させて書いてね。じゃないとひっくり返った字になっちゃうから。」
「「「は〜い。」」」
仕組みとしては単純で、太いペンの中に生地が入れてあって、スイッチを押す事で中のストッパーが動いて生地が出るようになっているっていうだけの話。
まあ、スイッチの内蔵スプリングを作るのにかなり苦労したけど。
元々は子供達への誕生日ケーキとかに使う為に作製したもの。
誕生日ケーキにはクッキーにチョコで名前とかハッピーバースデーって書かれてたりするから、それを書くために作った。
こっちだとそういうのはあんまり無いから自分の名前が書いてあるだけでも喜ばれる。
「へぇ〜面白いね。先に焼く事で焦げて字が浮かび上がるって仕組みなんだ。」
「ああ。昔の日本に文字焼きっていうのがあってな、熱した鉄板の上に油を敷いて、そこに味付けをした生地を使って子供に文字を教えていたっていう話があるんだよ。それを使ったんだ。」
「へー。」
「ちなみに、その文字焼きが起源とされるもんじゃ焼きってのがあるけど、そっちはドロドロで焼き固まらない食べ物で、文字焼きの原型がどこにも無かったりする。」
「そうなんだ。」
もんじゃ焼きはそんなに食べた事ないけど、今度なんとかして食べれないものだろうか。
なんか話したら食べたくなってきちゃってさ。
「出来たよ〜。後は父さん達だけだよ。」
「おう、分かった。」
文字ペンを受け取った俺達はそれぞれ愛する人に向けた言葉を書いて、そしてホットケーキを焼いていく。
書いていく言葉はみんな一緒だ。
『これからも貴女を愛していく。だからずっと一緒にいよう。』と。
「ホワイトデーのお返しが出来たぞ〜。」
みんなにそう言いながらストレージにしまったホットケーキを出していく。
出来たそばからストレージにしまっていったからどれも熱々だ。
そしてこれ。
王侯貴族御用達の牧場産バターと深桜樹の蜂蜜をみんなの前に出していく。
どれもこれも最高品質のものばかりなので味も当然素晴らしく、嫁さん達も子供達もみんな喜んでくれた。
自分達用に作った文字なしホットケーキを食べつつ、材料集めの際の苦労話なんかも話しているとセフィア達が何やら言いにくそうにしていたので、ちょっと怖いけど聞いてみた。
「えーと、あのね、ベーキングパウダーなんだけど、普通に売ってるんだよ?」
「え、そうなの!? でも俺もピュリオスも全然見つけられなかったんだけど……。」
「それって、普通のお店とかを探したんじゃない?」
「そうだけど、普通はそうなんじゃないのか?」
「あのね、ベーキングパウダーって実は薬師とか錬金術師の領分なんだよ。だからね、売っているのは薬屋とかなんだよ。」
「「へ?」」
きっと今、俺とピュリオスは随分と間抜けな顔をしている事だろう。
そして、あちこち探したのに見つけられなかったあの頑張りが全部ただの徒労だと知って、俺達はその場に崩れ落ちたのだった。
ーーー後書きーーー
予定よりも長くなってしまった為投稿が遅れてしまいました。
普段通り5時に投稿だと16日になってしまうので、この話は即時投稿とさせてもらい、次話は17日とさせてもらいます。
ベーキングパウダーは炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、酒石酸水素カリウムやらといった物から作られているようで、普通の食材店では取り扱ってないと思い、薬師、錬金術師の領分とさせていただきました。
どう考えても魔法文化世界の普通の人が手を出していい領域じゃないですし。
パンツァービーネの女王蜂について。
この子が前書きに書いた想定外のキャラです。
場所が場所ですし、ランクも高いだろうから女王蜂なら喋るかもと思ってしまったのが運の尽き。
そう考えてしまったら勝手に喋りだすしレントはナンパ紛いのことまで言い出すしで本当にもうね。
ちなみに、ホワイトデーの後は時々蜂蜜をもらいに行ったりしてます。
そんで仲良くなってたりします。
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