第997話 そろそろお仕事もした方がいいかも。的なお話

海鮮丼を食べ終え、余韻に浸る。

それのなんと幸せなことか……。

暫く余韻を堪能した後にお会計。

その際にマグロがどこで買えるかを女将さんに質問する。

ここの海鮮丼には少量だったけどちゃんとマグロが使われていたから多分知ってるはずだ。


「そういえばマグロってどこで買えますかね?」

「マグロはやめときな。他のにしたらいいよ。」

「なんでですか?」

「あんたら旅人だろう?」

「ええ、まあ。」

「なら知らないのも無理ないだろうから教えてあげるよ。マグロってのはね、凄く足の早い食材なんだよ。そんな物を旅人であるあんたらが買ったとしても腐らせるのがオチだろう。それにマグロはピンキリでな、マグロにゃいくつかの種類があってそれによって味が変わる上に、部位によっても変わるんだよ。基本的には大丈夫だろうけど中には旅人だからと、質が悪くて安い部位を最も美味いとされる黒金マグロだと偽って売りに出す可能性がある。だが旅人であるアンタラにはその目利きが出来ない。そして何より、マグロは高いんだよ。」

「高いんですか? でもさっき食べたのにも使われていたけど、それほど高く感じませんが……?」

「そりゃアタシの旦那が漁師だからね。他の店よか安いよ。でも高いのは本当だよ。マグロは足が早いってさっき言っただろ? だから保存するには凍らせる必要があるんだが、その為の魔道具に使う魔石に金がかかる。この国には大したダンジョンが無いからね。お隣のグラキアリスから輸入せにゃならん。その分値上がりするし、マグロはでかいから全部の船が狙えるわけじゃない。そして1番の理由が、出回る数が少ない。」

「少ないんですか?」

「少ない。安全に漁が出来る船はそれなりの大きさになるから維持費もかかって漁が出来る漁師もそれほど多くないんだよ。おまけに必ず釣れるわけじゃないからね。自然と出回る数が減るんだよ。」


多分、この世界じゃ養殖とかは普及していないんだろうなぁ。

日本でも完全養殖するのにかなりの期間を要した。

科学が発達していないこの世界ではマグロの管理、研究すらも難しいのではないだろうか?

そういった理由があって養殖は進んでないのかもしれない。


「ま、それでも欲しいってんなら覚悟が必要になるね。質の悪い安物を押し付けられる可能性があるんだしさ。」

「覚悟しておきます。それで、お店の方は……?」

「と、そうだったね。店を知りたいんだったね。だが悪いね。ウチは旦那が漁師だから買うことは無くて手に入った物を使うようにしてっからさ。それに、今日はどこの店が仕入れられたかなんて分かるわけないしね。」

「つまり、虱潰しで探すしかないと。」

「そうなるね。」


なんてこったい……。

自力で探すしか道はないのかよ。

質に関してはアイテム鑑定のスキルがあるから多分なんとかなるとは思うけど、質以前に見つけられない可能性があるのはなぁ……。

はぁ〜……まあ、地道に頑張るしかないか。


とりあえずお昼を食べる前に見つけたお店で欲しい物を買えるだけ買った。

嬉しい誤算だったのはお米も取り扱っていたこと。

他のお客さんやお店で使うとかでそこまでの量は売れないとは言われたものの、それでも三俵程売ってもらえたからね。

これで暫くは安泰だろう。

ヤマトでも買えるかもしれないけど、買える時に買っとかないとね。

それにヤマトでも購入制限がつけられるかもしれないんだから複数の場所で買うというのもそう悪い選択じゃないはず。

何よりお米は沢山あっても困らない!


予期せぬラッキーがあったものの、その後のマグロ捜索の結果は振るわず、仕入れられた店もあるにはあったが、どこもかしこも売り切れていて、結局今日はマグロを買うことができずに宿へと帰還した。

くそう……。

明日こそは、明日こそはマグロを手に入れてみせる!

あ、でもマグロ高いそうだし、そろそろお仕事もした方がいいかも。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る