第981話 凄くかっこいいと思う。的なお話

「ん? なんだ? 気になんのか? 何ならもっと見ていいんだぞ?」


この人……まさか露出狂か!?


「見せなくていいですから、早く服着てください!」

「ちっ! なんだよ、ノリわり〜な。」


そう言って一旦奥に引っ込む親方さん。

多分服を着に戻ったのだろう。

そうであって欲しい。


「でもさ、ちょっと喜んでたでしょ? いいの? セフィア達みんな見てるよ?」


蒼井がからかってくる。

このタイミングでそれはやめて欲しい。

だからはっきりと言ってやらねばな。


「俺が喜んでいたのは、漫画とかでたまに見かける場面に遭遇したからだぞ。ラブコメ物だと半裸やパン一の女性キャラに時々遭遇してたりするからな。それを実際に体験できたんだ。そりゃ喜ぶだろ。」

「で、実際のところは?」

「くどい。」


そりゃまあ、男ですし、見られるのは嬉しくないかと言われれば嬉しいと言わざるを得ないかもしれないけどさ、でも漫画的イベントに遭遇できた嬉しさの方が優ってるし、なによりも驚きの方が強くてそういうふうになんか見れなかったわ。

だからすぐに目線を逸らしたわけだし。


「これでいいか?」


そう言いながら戻ってきた親方さんは………下着の上とスッケスケのネグリジェ? なんかそういうシースルーな感じのを着て戻ってきた。


「……もうそれでいいです。」

「んだよ……ノリわりーな。」


からかう気満々で戻ってきた様子の親方さんに嬉しさとかじゃなくて呆れというか……なんていうかもうどうでもよくなった。

そんな俺の様子を見たからか、つまらないといった表情をしながら徐ろにアイテムボックスを開くと、そこから上に羽織る物を取り出した。


「いや、持ってるんならなんで奥に引っ込んだんだよ……。」

「そんなもんからかうために決まってんだろ?」

「親方、何をそんな当たり前のことを? みたいな顔して言うなよな……。この店を自慢げに紹介しに来た俺が馬鹿みたいじゃないか……。」

「人生楽しんでない奴がロクなもん作れるかってんだよ。」

「はいはい。それはもう聞き飽きたから。それよりもまずは自己紹介をしてくれ。」

「へいへい。あー、オレがこの万物屋の主人、ミスリアだ。なんだかんだでそこの小娘の面倒も見てる……まあ、親代わりってところか。」

「だから俺は男だ!」

「女なの?」

「男だ!」


男らしいです。

言われてみれば女の子みたいな顔をしてなくもないが、いかんせん結構汚れてるし、それにまだ幼さがあっておまけにやつれ気味でイマイチ性別が分からない。

どっちが正しいのかは分からないけど、本人が言っている事だし男として扱おう。

実際、今日限りの関係だろうし、そこまで気にする必要もないだろう。


「万物屋っていうのは、色んな物を作るから?」

「まあな。簡単に言えば物作り関係の何でも屋だ。炊事道具に武器に日用雑貨、アクセサリーに衣服となんでもござれだ。」


なんでもって、それ凄くない?

俺自身物作りをやってるけど、なんでもとは流石にいかない。

服飾関係はからきしだし、物によっては対応するスキルがまるで違うから1から練習しないといけないものもかなりあるだろう。

爪楊枝作りとかはその最たる物。

そこは細工でいいじゃないかと思わなくもないのに何故かスキルが存在するという不思議。

この世界のスキルは謎に満ちている。

それなのになんでもというのは本当に凄い事なんだよ。


「俺は生まれつきそういうスキルがあってな。そのおかげだ。」

「そんな簡単に教えていいんですか? そんなスキルの持ち主って分かったら国や商人が黙ってないと思うんですけど……。」

「なんでも作れるけどそれにはデメリットも当然あるからな。そういった連中はそのデメリットも知ってるからオレなんか相手にしねーよ。」

「デメリットですか?」

「おう。ま、簡単に言うとなんでも作れるけど何にも作れねーんだ。」

「はい? 意味が分からないです。」

「オレ自身のオリジナルが作れないんだよ。これまでの技術を組み合わせた全く新しい物を作ろうと思った時もあった。だけどよ、何度作ろうとしても手が動かねーんだ。多分、色んな物を作れるけど、それは既にある物だけで新しい物は作れないんだ……悔しい事にな。それと、同じ物を作ってもその道のプロみたいな連中の作るものよりも劣ったもんしか作れねーんだ。」

「それは……辛いですね。」

「まあ、まだ諦めたわけじゃねーけどな。そういう理由で、新しい物を生み出せて尚且つオレよりも腕のいい職人がいっぱい居る。ならわざわざオレなんかを雇う理由はねーだろ?」

「でも、それでも十分凄いです。」

「……あんがとよ。さて、あんま辛気臭いのは無しにして、それよりもオレの店を見てってくれよ。店に無い物も言ってくれりゃ作ってやるからよ。」

「分かりました。」


なんでも作れる代わりになんにも作れない。

そんなデメリットにもめげずに頑張ってるというのは、凄くかっこいいと思う。

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