第943話 時間が無くなりかねないし。的なお話

適当に見て回るのだが、残念ながらアイリスさんはアクセサリーにそこまで興味を示す事が無かった。

これまでに10軒くらい回ったんだけど、これは!? という反応が無かったんだよなぁ。

ちょっとこれじゃあ勧めにくい。

まあ、回った店の全てがアクセ関連ってわけじゃなかったんだけど、それでも何軒かあった。

そのどの店でも反応は芳しくない。

いやまあ、気にいるのが無かっただけという可能性もまだ十分あるけどさ。


「アイリスさん、何か気にいるものあった?」

「あー、そうっすね……どれもこれも、性能や素材に比べて値段が釣り合ってなかったっすね。」

「露店の商品なんてそんなもんだよ。」

「それは分かってるんっすけど、専門は違うとはいえ私も職人の端くれ、そういうのはどうしても気になってしまうんすよ。」

「その気持ちも分からなくもないけどね。俺も鍛治やって細工もやってるからね。でも作ってるのが全員が全員職人とも限らないじゃない? まだ見習いとか、練習を始めたばかりの人とかも居ると思うし。」

「それも分かってるんすけどね……でもどうしても気になって……。」

「んー、じゃあ露店はやめてちゃんと店を構えている所にする?」

「いやいや、そこまでする必要は無いっすよ! こういうのは見るだけでも十分楽しいっすから! それに、中には掘り出し物もあるかも知れないし、本当に気にしなくていいっすから!」

「まあ、アイリスさんがそれでいいなら……。」


もう少しだけ街の中心近くの方に行くか。

そこなら人目が多い分ここよりも質の高い物がありそうだし。

というわけで少しずつ街の中心の方にそれとなく誘導していく。

そうして街の中心の方に行くと、予想通り露店の商品の質が上がっている。

露店以外の出し物も充実している。

吟遊詩人とか大道芸人とかだな。

珍しいのだと怪しげな宗教の勧誘なんかもある。


そして、奴がいた。


「安いよ安いよー! 今なら黒桃がたったの50リム! これは買わない手はない!」


叩き売りさんだ。

どこにでも現れる叩き売りさんだ。


「その黒桃っていうのはどういう果物なんですか?」


日本には無かったからね。

だから黒桃なんて言われても全然分からない。

だから聞いてみた。


「黒桃は桃の一種なんですけど、甘味と共に微かに感じる苦味が特徴な大人向けの果物ですね。名前の由来は見ての通り見た目が黒みがかってるからです。」


確かに黒みがかってるな。


「うーん、じゃあとりあえず20個ほどください。」

「毎度あり!」


ちょっと多いかもしれないが、保存に関しては時間停止のストレージ様があるのでな。

どれだけ買っても傷まないし腐らないのでなんの問題もない。

安かったので懐も全然痛んでないし。


「店の方には他にも色々と取り揃えてるのでそちらも是非。」


店の方も紹介されたが、わざわざ行くほどでもないしそっちはいいや。

叩き売りから少し離れたところで黒桃をカットして食べてみる。

確かに苦味があるけど、これはこれでなかなかいけるな。

みんなにも分けてみるが結構好評。

ただ、やはり苦味があるせいかメンバーの中でルリエとルナはちょっと苦手なようだ。

そしてアデルもダメらしい。

見た目は1番若いしそれも仕方ないのかもしれない。


「今変なこと考えなかった?」

「いえ別に。」


いつもの。


カットした黒桃も食べ終わったし次に行こうかね。

そろそろアイリスさんが気にいるようなのがあるといいんだけど。

このままだとアデル向けの店を回る時間が無くなりかねないし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る