第931話 いつまでしがみついているつもりなのかな? 的なお話

馬車を走らせエリュシオン邸へ。

そういえば馬車のまま向かってるけどいいのだろうか?

アデルは馬車も自作してたから多分厩舎とかもあると思うけど、見た事ないからなぁ……。

ちょっとだけ不安。


たどり着いたエリュシオン邸だが、どうやらまだアデルは帰ってきていないようだ。

だけどなんか普通に通されたよ?

なんかもうね、門番さんもメイドさんもハラルドさんもみんな普通にお帰りなさいませって言ってくるんだよね。

そんなんでいいのかよ、貴族家の従者達……。

あ、馬車も馬もちゃんと置く場所はあったよ。

普通にアルバとマロンをそこに連れてってくれた。


アデルが帰ってくるまで各自自室で自由に過ごすけど……この自室ってのもまた、ね。

それぞれの好みに合わせて設えてあってもう完全に身内扱い。

他の貴族からの攻撃材料にならなきゃいいんだけど……ちょっと心配だ。


暫く部屋でのんびりとしているとどうやらアデルが帰ってきたようでリゼットさんが教えてくれた。


「アデラードさん。」

「お帰り!」


会った瞬間アデルは目にも留まらぬ速さで抱きついてきた。


「うぇっ!? いや、あの、え?」

「寂しかった……たった一月、すぐにまた会えるって思ってても、やっぱり寂しくて……だから、もう少しだけこのままでいさせて……。」

「あー、うん。分かったよ。」


これ、結構恥ずかしいんだけどなぁ……。

アデルだけじゃなくてアイリスさんとリナさんも一緒に来たみたいで、アイリスさんは呆れたような顔をして、リナさんは羨ましそうな顔をしてこちらを見ている。

うん。

恥ずかしい。

そうこうしている内にみんなも部屋から出てきて合流した。

それでもまだアデルは引っ付いたまま。


その後もなかなかアデルが離れないものだから仕方なしに後ろに回ってもらってリナさんとの再会の挨拶をする。


「お久しぶりです、リナさん。」

「レントさん、私も、ずっと会いたかったんですよ? それなのにアイリスの所には寄って私の所には来てくれなかったのはなんでですか?」

「あー、だって仕事があるだろうから、あんまり邪魔しちゃうのもどうかと思って。」

「アイリスだって仕事がありました。」

「そうだけど、個人事業と半ば公共事業であるギルドじゃ大分違うだろ? あんまりサボるわけにもいかないだろうし。」

「それは……そうですけど。」

「そういうわけで別に蔑ろにしてたわけじゃないから。」


拗ねてるがこちらをチラチラと見たりしてるし、本気で拗ねてるわけじゃないのだろう。

多分、今も後ろに張り付いている……っていうかいつの間にかしがみついている人が羨ましいのだろう。


「また会えて嬉しいよ。」

「私もです。」


なのでギュッと抱きしめる。

アデルの腕と足が当たってしまうが、それは仕方ないという事で。


暫くそのままでいた後、そっと離す。

すると次は自分の番っすね! といった感じでアイリスさんが手を広げてスタンバっているのでアイリスさんも抱きしめる。

そういえばお喋りはしていたけど、スキンシップとかはしてなかったな。


2人とのスキンシップを終えたので、みんなで食堂の方へと向かう。

料理が出来たとメイドさんが教えてくれたわけじゃないが、もうそろそろ出来上がる頃だろう。

なんだかんだもういい時間なので空腹なのだ。


食堂に入るとメイドさん達が夕食の準備をしている最中だった。

食器が並び幾つかの料理も既にテーブルの上に置いてあり、後少しってタイミングだったみたいだな。

遅れていることを謝ってくるけど、別に問題を起こしたわけじゃないし、そっちが早く来てしまっただけだから、きにしないでと伝えておく。

こういうのって普通は俺じゃなくて雇主であるアデルがする事じゃないかな?

というかアデルさん?

一体いつまでしがみついているつもりなのかな?

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