第927話 銭湯や温泉の定番だよな。的なお話

「ぐぬぬ……ま、負けた……。」

「私の勝ち。」


大富豪を始めて早1時間。

そろそろ夕陽の時間という事で最後のひと勝負となったわけだが……結果は惜敗。

リリンが大富豪のまま勝負は終わりを迎えた。

いや、途中何度か大富豪になれたりはしたんだよ?

でも結果だけを見ればリリンの勝ちというか、俺が大富豪になった回数よりもリリンが大富豪になった回数の方が多い。

最初に割といい感じだったお陰で富豪スタートだったんだけど、やっぱりリリンが立ちはだかって……。

……悔しい。


「そろそろ向かい部屋に行きましょうか。」

「そうだね。きっと綺麗だろうし早く見たいね。」


大貧民と貧民だったルリエとセフィアがそう言う。

負けていた2人がこう言ってるわけだし勝っていた俺が引きずるわけにもいくまいて。


「そうだな。」


向かい部屋に入ると既に部屋の中は茜色に染まっていた。


「うわぁー!」

「凄いなこりゃ。」


周りに景色を遮る建物がないお陰か、夕陽をはっきりと見る事が出来る。

普段なんとなく夕陽を見てきたけど、こうしてしっかりと見たのは凄い久しぶりな気がする。

多分だけど、日本にいた時以来だ。

初めてしっかりと見る異世界の夕陽は日本のそれよりもどこか綺麗に見える。

太陽の大きさか、遮る物がない景観故か、或いは空気が余り汚れていないからか……理由は分からないが、凄く雄大で、完全に日が沈むまでじっと見てしまった。


「暗くなったし明かりを点けるわね。」


シアが光魔法で灯りを作り、その灯りを頼りに照明のスイッチを探す。

こういうのは大体入り口付近とかなんだけど、ここは1番お高い部屋でどこにスイッチがあるのか見当がつかない。

邪魔にならないようにじっとして待つ事少し。

スイッチを見つけたシアが明かりを点けた。


「この後はどうする? 後1時間ほどで夕食になるけど。」

「風呂でいいんじゃないか? これまでもお湯で汗を流してはいたけどちゃんと風呂に入ったわけじゃないしな。それにここらでゆっくり疲れを取るのもいいと思うしな。」

「それもそうね。といっても1時間もないからあんまりゆっくりは出来ないけどね。」

「その時はまた後で入ればいいだろ? 温泉は何度入ってもいい物だ。」

「温泉とは限らないけど?」

「そこは気分だ。」


蒼井にチャチャを入れられたが、大事なのは気分である。

普通の銭湯だって温泉を使ってるわけじゃないけど、疲れを取る事が出来る。

ぶっちゃけるなら肩こり腰痛冷え性疲労回復とかそういうのは風呂自体の効果だって話だし、疲労を取る分には温泉であるかどうかは関係ない。

旅先で温泉に入っているという気分こそが重要なのだ。


「まあ、気分云々はともかく、急いだ方がいいわね。こうしている間にも時間は過ぎていくし急いだ方がいいんじゃない?」

「それもそうだな。」


アカネの言う通り、ここで時間を使っててもしょうがない。

夕飯もあるし少し急いだ方がいいだろう。

着替えの準備をしたら早速風呂に向かう。



おおー、広いなぁ。

大浴場と言うだけあって本当に大きい。

日本の銭湯くらいはあるんじゃないか?

日本の銭湯は上下水道完備していて巨大なボイラーとかそういうのがあって初めて実現出来るのだろう。

だから異世界では厳しいと思うが、これがなかなかどうして、侮り難いな。

まあ、1年くらい前にも一度来た筈なんだけどね。

全然覚えてないや。


身体を洗って早速湯船の中へ。


「ふぅぁ〜。生き返るぅ〜。」


お風呂の定番セリフが出てしまった。


「ははっ! なんだよそれ。生き返るってお前死んでるのかよ。」

「聞かれてたか……。俺の故郷だと風呂入った時こう言う事が割とあるんだよ。特に大きな風呂だと尚更な。」

「へ〜。そうなのか。」

「ところでお前、名前は?」

「ああ、俺はユシェムってんだ。よろしくな。」

「俺はレント。こちらこそよろしく。」


知らない人との裸の付き合いってのも、銭湯や温泉の定番だよな。

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