第913話 ちゃんと落ち着こう。的なお話

〜リィナ視点〜


家に帰る途中、折角だしと少し街の中心を見て回ろうと思った。

今特に何か入り用という事ではないが、何かあるかもしれないしな。


そうして街を歩いていると吟遊詩人の歌が聞こえてきた。

そういえば、まともに聞いた事なかったな。

そう思って足を止めたのが間違いだった。


「ねーねーかーのじょ。今暇? ちょっと俺達とお茶しない?」


ナンパされるとは思わなかった。

というか、こいつら確かセラが言っていたDランクの冒険者だった気がする。

蜂に刺されて顔を膨らませていた奴らだったか?

普段からギルドで見かけているだろうに、何故今更声をかけてくるのやら……まあ、そう悪い気はしないが。

最近はゴリラも豚も声を掛けてこないし。

だがまあ……。


「すまんが断らせてもらおう。」

「は? ちょちょちょ、待ってくれよ。なんで断るのさ?」

「悪いが好きな奴がいるのでな、お前らを相手にする気は一切ない。」

「好きな奴って事はまだ付き合ってるわけじゃないんしょ? なら試しに俺らと付き合ってみたらいいじゃん?」

「あ、それいい考え。」


いい考えな訳ないだろう……。

なんなのだこいつらは。


「悪いがそんなつもりもない。私は帰らせてもらおう。」

「まあまあ、ちょっとくらいいいじゃん。すぐそこにオススメの店があるんだ。本当にちょっとだけでいいからさ。」

「いい加減にしてくれ!」

「いった! ちょっ、何してくてんだよ!?」


しつこく食い下がってくることに苛立ち払いのけようと思ったのだが、力加減を誤ってしまったようだ。

怒りに任せ掴みかかろうとしてくるが、流石に黙って捕まるわけにもいかない。

軽く躱していくと、段々と頭に血が上ってきているようで、遂には武器に手を掛けだす始末。

しまったな。

そこまでの事になってしまうとは思わなかった。

今までのゴリラや豚は返り討ちにすれば良かったが、街中ではな。

と思ったが、救いはあった。


〜レント視点〜


騒ぎの元へと着くとそこには茶髪のロングヘアにスタイルの良さを生かしたコーディネートをしている美人さんが冒険者に襲われていた。

相手が弱くてもよく躱せるな。

……じゃない!

止めなきゃ!

って、あいつら武器に手を掛けたぞ!?


「そこまで! 流石に武器を使うのはダメだろ!」

「あ? なんだお前?」

「まずは落ち着いて。こんな所で武器なんて抜いたら即詰所行きだぞ。」

「ちっ! わーったよ。やめりゃいいんだろ、やめりゃ。」

「それで、何があったんですか? この人が何かしたんですか?」

「何もねーけど、でもあんだけコケにされて黙ってられるか!」

「何もされてないのに、武器を抜こうとしちゃダメだろ。」

「うぐっ!」

「まあ、完全にそっちが悪いみたいだし、ちゃんと謝ってその場を離れたほうがいいんじゃないか? 誰かが衛兵に連絡しにいってるかもしれないし。」

「「「げっ! それは勘弁!」」」


やっぱり捕まるのは嫌なのか、美人さんに平謝りをした冒険者達はそそくさとこの場から立ち去っていった。

というか、捕まりたくないなら暴れるなよな。


「大丈夫ですか? どこも怪我とかしてませんよね?」

「ああ、大丈夫だ。しかし、戦わずに場を収めるとは、流石だな。」

「ありがとうございます。」


なーんか、この人の喋り方に既視感を覚える。

真面目というか、少し固いこの感じ……ユキノに似てるけど、少し違うし、何よりユキノはすぐそこにいる。

なんだろう、この既視感。

美人さんをじっと見ていると恥ずかしくなってしまったのか、少しだけ頬を赤く染めてる。

やばっ! あんまり長く見るのも良くない。

謝ろうとした所で、カチリと何かがハマった音がした。

……と、小説とかだと表現するんだろうな。

そんな感じでふと理解した。


「あの、ひょっとしてリィナさん、ですか?」

「それくらい見れば分かるだろう。」

「いや、分かりませんよ! 普段と全然違うじゃないですか!」

「そ、そんなに、変か……?」

「変じゃないです。凄く似合ってます。」

「そ、そうか……似合ってるか……ふふっ。」


ドキッとした。

微笑む顔があまりにも綺麗だったから。


俺はポニテキャラが好きだ。

格好良さと可愛さ、もしくは綺麗さが両立し、その上で髪を下ろすとまた違った印象になるギャップ性、その2つが好きな理由なんだと思う。

そのギャップを今、リィナさんに見せられている。


落ち着け俺……もう10人も居るんだぞ。

これ以上増やしてどうする……落ち着け、落ち着くんだ。

まずは素数を数え……素数ってなんだっけ?

いやいや、全然落ち着いてないじゃんか!


ゆっくり深呼吸して、ちゃんと落ち着こう。

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