第912話 騒ぎの中心地へと向かおうかな。的なお話
バナナをみんなで分け、食べながら歩いていると人だかりを発見する。
何があるのだろう? と、野次馬根性を発動させて人だかりの中へと飛び込んでいく。
「お前に俺の何が分かる!」
「分からねぇよ! 分からねぇけど、でも俺に一言くらい言ってくれたっていいじゃないか!」
「うるせぇ! お前にだから言いたくなかったんだよ!」
「なんで俺はダメなんだよ!」
「そ、そんなの、どうでもいいだろ!」
「どうでもいいわけないだろ!」
…………えーと。
俺は一体何を見せられているのだろうか?
人だかりの中では2人の男が取っ組み合っていて、一見喧嘩のように見える。
話している内容もそれっぽい感じがする。
何か秘密があって、それが原因で言い争っている。
しかし大切な友人だからこそ言えない。
そんな感じの内容。
でもそれは普通にしてればの話だ。
お前にだから言いたくなかったさんは何故か頬を赤く染めていて、ダメなんだよさんから少しばかり顔を背けてる。
…………本当に何を見せられているのだろうか?
多分これってそういう感じだよね?
BでLな感じだよね?
女の子同士の場合は百合だけど、男同士だと何の花になるんだろう?
一生知らなくていいけど。
嫁達が変な世界に足を踏み込まないよう急いでこの場を去ろう。
というか、いつぞやのホモ盗賊どもを思い出して寒気がする……俺のためにも早く立ち去ろう。
BL現場から離れてしばらく歩いていると歌声のような、それでいて歌ではないそんな声が聞こえてきた。
多分吟遊詩人だろう。
そういえば最近は聴いてなかったし、ちょっと聴いていこう。
「え〜、次の演目は『最強、俺様、ローガン様』です。どうぞごゆるりとご堪能ください。」
何そのタイトル?
歌を聴いている限りではどうやら冒険者が主人公のようだけど……。
吟遊詩人の歌ってどうやって作られているんだろうか?
やはり取材?
それとも噂話を集めたりして?
この内容だと多分本人がこんな歌を作ってくれって頼んだ感じかもしれない。
他のはどうかは分からないけど、普通ならこんなタイトルの作品を作るとは思えないし。
そうして何曲か聴いていると、なんだか聞いたことのあるような内容の歌になった。
とある街で密かに進行していた陰謀。
魔物を集め、王都を、この国を壊滅せんと暗躍する謎の組織。
そのことを察知したその街の冒険者ギルドマスターが精鋭を率いて対処しようとするも、謎の組織が操る魔物と戦闘を繰り広げる。
次々に現れると強敵と戦い、ついには勝利を収め、街に、そしてこの国に平和が訪れた。
そんな話。
その話、なーんか、身に覚えがあるんだよなぁ。
出てくる魔物もレックスとかフレアレオとか、知ってる奴だったし。
大仰になってはいるけど、所々で身に覚えがあって、多分だけど、あの時の事なんじゃないかな……。
事実と違ってるのは脚色されているからか、噂話を集めたが故の尾ひれがついてしまっているのかは分からないけど、自分達の事が歌われるというのは、恥ずかしいものだな。
そ、そろそろ離れようかな?
そう思った時にちょっとした騒ぎが起きる。
又喧嘩か?
全くなんだってこんな時に……。
次は百合百合な展開じゃないよな?
いや、それはちょっと見てみたい気もするけど。
でも、今は何も無いのが1番。
騒ぎがひどくなるようなら仲裁なりした方がいいだろうし、ひとまず騒ぎの中心地へと向かおうかな。
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