第897話 貴女だけは違うと信じていたのに! 的なお話

武器のメンテは後2人分なんだけど残念ながら時間切れだ。

シア、ルナ、蒼井の後衛組の武器はほとんど使った形跡もなく問題は無かった。

まあ、当然だな。

なので3人分はやらなくて良いんだけれど、流石に開始時間が遅すぎた。

それでも4人分は終わらせた自分を褒めたい。

残り2人分は明日だな。


そしてエリュシオン邸へと帰るとリナさんアイリスさんの2人が待ち構えていた。

いや、待ち構えてはいないけど。

いわゆる言葉の綾って奴だ。


「レントさん!」

「うわっと。」


そう思っていたらリナさんが飛び込んできて慌てて受け止める。


「体、どこも怪我してませんよね!?」

「大丈夫です。どこも怪我なんてしてませんよ。だから安心して下さい。」


安心させるように優しい声になるように心掛けて声を掛ける。

勿論、あの空間内での怪我は一切言わない。

内臓損傷に各種裂傷、骨折なんかもあったかな。

それらをポーションで癒しつつ強引に戦闘を継続した……なんて、このタイミングで言っても逆効果だろうし。


「本当に……大丈夫なんですね?」

「はい。この通りです。」

「良かった……本当に、心配したんですから。」


アイリスさんから聞いてはいたが、本当に心配をかけてしまったようだ。

リナさんが落ち着いてから食堂へと向かい、夕食を食べつつカインに1度帰ることを伝える。

リナさんにはあんな事があったばかりなのにとまた心配させてしまったが、家の事を伝えたら納得された。


「ねぇ、やっぱりウチに住まない? 契約期限切れるわけなんだし、なら本拠地をここに移してウチに住めば良いんじゃないかな?」

「いや〜、流石にそれは……それに、カインはルリエの生まれた街ですから。」

「うーん、そっかぁ……でも、ウチはレント達ならいつでもウェルカムだからその気になったら言ってね。」

「一応覚えておきます。」

「それ、絶対覚える気ないよね?」

「気のせいですよ。と、そういえばユーリは言わないんだな。私も付いていく! って。」

「どうせすぐに帰ってくるんでしょ? それに……家族水入らずを邪魔しちゃ悪いし……。」


ルリエを見ながらそんな事を言うユーリに、不覚にも驚いてしまった。

いやまあ、ユーリも意外とまともなんだよな。

セフィアに関する事では頭おかしいけど。


「それで、いつ出るの?」

「武器のメンテがまだ少し残ってますから、明後日辺りを予定してます。」


みんなには言ってないけどね。

でも実際に武器のメンテが済んでないのだから出掛けるわけにもいかない。

それに、予定では準備に2、3日使い、それからカインにって話だからまあ、納得してもらえるだろう。


「そっか……明後日か。なら、明日はまだ居るんだよね?」

「そりゃそうですよ。」

「じゃあ、明日の午後は時間空けといて。渡したいものがあるからさ。」

「? はぁ、分かりました。」


渡したいものってなんだろ?

アデラードさんがくれるって言うのだからそれなりに高価なものな気がするけど、本当になんだろう?

そもそもカインに行くのだって家を継続して借りるなり、契約を解除するなりするだけで特別何かあるわけじゃない。

ま、いいや。

明日になれば分かる事だし今考えてても仕方ない。


そしてお風呂を満喫して後は寝るだけってタイミングで部屋がノックされる。

こんな時間に誰だ?

今日はそういうの無しって言ったのに。

まあ、普通に一緒に寝たいとか、そんな所だろう。

それならセーフと考えそうだし。


「って、あれ? リナさん? どうしたんですか? それにアデラードさんも。」

「えと、あの……その……。」

「まあ、立ち話もなんだし、部屋に入れてよ。」

「え、まあ、そうですね。どうぞ。」


2人を部屋に招き入れたはいいが、リナさんは椅子にも座らず立ちっぱなしのまま何か言おうとしてるんだけど、言葉には出来ないようで、口をパクパクさせてる。

本当になんなんだろう?

リナさんが言葉にするのをじっと待っているとアデラードさんが焦れてしまったようで突然押し倒してきた。


「って、ちょっ!? り、リナさんも居るのに何考えてるんですか!?」


というか俺みんなに今日は無しって言ったよね!?

って、人様の家だから、それは家主には関係ないじゃん!

それ以前にアデラードさんには言ってなかったよ!?


「ほら、リナも早く来て。」

「ふ、ふちゅちゅかもにょでしゅが、よりょしくおねがいしましゅ!」


噛み噛みだよ!?

そんな状態なら無理しなくていいのに、なんで意を決したような表情で飛びかかって来てるんですかね!?

リナさん、貴女だけは違うと信じていたのに!

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