第889話 今日もお世話になります。的なお話

〜レント視点〜


濃密な時間を過ごし、気付けば深夜0時を過ぎている。

うん。

模擬戦で盛り上がり過ぎた。

いやだって仕方ないじゃないか。

みんなが戦いたがるんだもの。

でも、意外だったのはアデラードさんとこのメイドさん達が、あんなに強いなんて……メイドって、なんだっけ……なんでみんなソロでミノタウロス亜種を倒してるの?

最後の方ミノさん遠い目をしてたよ。

遥か彼方の水平線の方を見てたよ?

肩ロースばかり狙ってた俺が思うことじゃないかもしれないけどさ。


「あ、そうだ。アデラードさん。助けようとしてくれて、ありがとうございました。エリーナさんも皆さんも。本当にありがとうございました。」

「気にしないで。私が好きでやった事だからさ。」


好きで、という単語にドキドキする。

さっき物凄い戦闘を魅せられた所為か普段の5割り増しでかっこよく見える。

可愛さも5割増しで、合わせて魅力2倍だ。


「それで、流石に神様がどうのこうのってのは言えないからみんなの早期帰還及び私とエリーナの不在の理由は記録結晶の情報を売るためって事にしとこうか。」

「そう、ですね。それがいいと思います。」

「ちょ、ちょっと待ってください! 情報を売ってないって、それではどうやって最初の記録結晶の事を、使い方を、説明するつもりですか!?」


ナタリアさんの疑問もごもっとも。

ここでまだ確定していなかったから試してその結果で情報を売るつもりだった……と誤魔化す事は出来よう。

だが、今更だ。


「ナタリアさんは聞いてたよね。フランって子のこと。」

「ええ。」

「その子が持ってきてくれたんだ。」

「……なるほど。」


目覚めさせた、とかアルティアさんの妹とか、そういう情報から答えを導き出そうとしているのだろう。

どこかに封印されていたとかそういう結論になりそうだけど、わざわざ答えてあげる必要はないだろう。

今はまだフランの事はそっとしといてあげたいし、こんな、巨大で危険なダンジョンのメダルを、全て集めるなんて危ない事しかねない情報は渡すべきじゃないだろ。

そんなの、全部集めようと無茶した瞬間そこで死が確定するようなものだ。


「それよりも、情報料だけど、普通にパーティで分けるって事でいいかな?」

「はぁ!? それ、本気で言ってますの!? 最初に手に入れたのはそちらでしょう!?」

「でも、貰い物だし、それに早期帰還の理由が情報を売るためだから、その情報料を分けない訳にはいかないし。」

「……では、私達は記録結晶を貰います。こちらは記録結晶を、そちらは情報料を。そうすれば周りからはお金よりも実物の方を優先したと、そう思われますから。」

「分かった。じゃあ、情報料はユーリ達と折半か。一緒に居た訳だし当然権利は……って、そういえばユーリ達は?」


全然気付かなかった俺は少し薄情ではないだろうか?

いや、余裕が無かったんだし仕方ない。

……情報料、色付けて渡そうかな。


「3人なら私の家にいるよ。」

「なんで!?」

「リリンが連れて来たから。レントとナタリアを探す際に自分達は足手纏いになるからって言ってたよ。それで、焦るリリンの代わりに状況とか詳しく教えてもらったんだ。」

「そうなんですか。なら、何かお礼をしないとな。」

「情報料だけで十分だと思うよ。どのくらいの値段になるかは私の一存じゃ決めれないけど、多分1000万は行くんじゃないかな。ギルドから収集依頼出して、いくつか数を揃えたらオークションをすれば余裕で元は取れるだろうしね。」

「そんな事していいんですか?」

「まあ、一応必要な事だから。情報を得て調査をし、その際に手に入れた物を調査が終わったから売りに出すなんてのはおかしな話じゃないし、その際に効果の説明と価格の目安を設けておきたいからね。数が少ない内は転送屋とかやる所も出そうだけど、どのくらいの値段で購入したか分かれば馬鹿高い値段の所には引っかからずに済むだろうしね。」

「馬鹿高い値段……ですか?」

「そ。自分達で使う分以外での小遣い稼ぎならまだしも、大した労力でもないのに1人頭で値段設定するとかさ。1パーティ160万くらいが妥当かな。帰還結晶が1つ150万だから。中堅どころならまあ、払えない事もないし。」

「なるほど。」


アデラードさん、普段はアレだけど、本当に頭の回転早いなぁ……。

普段はアレだけど。


「私達はこちらですので。」

「あ、分かった。」

「詳しい話は明日のお昼にギルドで話しましょう。では、また明日。」

「また明日。」


ナタリさん達と別れて俺達はエリュシオン邸へと向かった。

って、何自然にエリュシオン邸に向かってんだよ!?

……ま、いいや。

こんな時間じゃ宿も受付してくれないだろうし。

アデラードさん、今日もお世話になります。

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