第884話 台無しだよ。的なお話

〜第三者視点〜


アルティアの場所へ向かう前にまずはこのドラゴンの処理だとばかりに目を向けるアリシア。

腕を突き出し掌を向けた瞬間ドラゴンの姿はどこにもなかった。


「無事ですか、蓮斗さん? 今治しますね。」

「アリ……シア……さん。何故ここに……?」

「蓮斗さんが危険だと報せを受け助けに来ました。もう大丈夫ですよ。魔力も回復しておきました。」

「……ありがとうございます。」

「まだ気分は優れませんか?」

「優れるはずありませんよ……だって、ナタリアさんが、死んだんですから……もっと、俺が強ければ、ナタリアさんは死ぬことも無かったのに……俺が弱かったばかりに……。」

「そのナタリアさん? という方も冒険者なのでしょう? ならば、その死の責任を貴方が背負うのはお門違いもいい所です。」

「え……?」

「危険だと知ってなおこの迷宮に挑んだその覚悟を汚すような事はしないでください。蓮斗さんの思いや覚悟が蓮斗さんだけのものであるように、そのナタリアさんの思いや覚悟もまた、その人だけのものなのですから。」

「……はい。」

「それでも気になるというのであれば、今から会って話をして下さい。」

「はい? って、ちょっ!?」


アリシアは未だ座ったままのレントをお姫様抱っこで抱き上げて転移する。

アリシアとナタリアのいる場所へと。

ちなみに、転移をするのにお姫様抱っこをする必要はない。

普段通りにゲートを開けばいいし、ゲートを開かないのであれば触れるだけでいいのだから。

完全に個人的な理由で、恐らく役得とか考えている。

赤面する蓮斗さんかわいいとかきっと考えている。

一層の事抱きしめたいとか絶対考えている。


「アルティア! 説明しなさい!」


転移してすぐに説明を求めるアリシア。

しかしその頬は緩み、レントをお姫様抱っこしたままだから格好がつかない。


「あの、その前に、ここから出してくれませんか?」

「ナタリアさん!? 無事だったんですか!?」

「ええ、まあ、今はあまり大丈夫ではないですが……。」


そして、ナタリアが非常に狭苦しい思いをしていた。

負け犬部屋にドラゴンが送られて来たからだ。

ちなみに、既に負けていたミノタウロス亜種と漆黒の騎士は負け犬部屋に転送された後部屋から出してもらって今は別室にいる。


ナタリアが解放され、ドラゴンも負け犬部屋から出され別室へと向かわされた。

お姫様抱っこされていたレントも降ろされようやくといった感じで説明が始まった。


「えーと、どこから話せば良いか……。」

「最初から説明なさい。」

「分かりました。事の始まりはフランちゃんがやって来た事から始まりました。そしてフランちゃんが目覚めた事、アリシア様が気に掛けている少年がいる事など、世界を見て回っている事、どこどこで食べた何々が美味しいなど色々です。その後にお願いをされました。これを作って欲しいと。」


アルティアが出したのは記録結晶。

それまでは存在せず、フランが交渉をして新たに生み出された道具。


「これまでは毎回踏破済みの階層を通り新規階層へと向かうシステムとなっていましたから、その分様々な経費がかかり、危険性も高まる事から奥の階層へと到達する者が非常に少なかった。それはアリシア様もご存知の事と思われますが、それでは迷宮の存在意義が失われてしまいます。なので、フランちゃんの話を受け入れ作りました。その際に少し迷宮に細工をし、最初の記録結晶は彼が手に入れるようにし、記録結晶を起点としてあの場所へと転移するようにしました。アリシア様が目を掛けている少年ですから、迷宮の存在意義を果たすのに相応しいと思いこのような事をしました。事前に連絡すべきでしたと今は反省しております。」

「蓮斗さんは初心者ダンジョンの石碑を憶えていますか?」

「え、はい。一応……。」

「人々の魂を鍛えること。それが初心者ダンジョンの存在意義です。それは他のダンジョンも同様です。初心者ダンジョンは戦闘に不慣れな者も挑めるようにというものでしたが、それ以外のものはより強く鍛えるための場所なのです。それが、迷宮の存在意義です。」


つまり、迷宮とは心と肉体、魂をも鍛えるための訓練場であり、レントが選ばれたのはアリシアが目にかけている存在だからこそ、鍛えるのに相応しいと思われたからだった。

ナタリアはそのとばっちりを受けた形となるが、流石にそこまでは神であっても予想は出来なかったようである。

アルティアが時間を司る神であったのならば予見する事は出来たかもしれないが、そうではないのでナタリアにとっては不運としか言いようがないだろう。


「後は、その、折角目覚めた妹が彼の事ばかり話すので、イラっと来てつい、魔が差しました。」


台無しだよ。

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