第877話 やるしかないんだ! 的なお話

こいつはまだ何もしてないのに、ただそこにいるだけで手が、足が震えてくる。


「なんだよ、これ……。」

「こんなドラゴン、聞いたことありません……この威圧感、レックスが子供としか思えませんわ……。」


狂化の咆哮をしたわけじゃないのに、だ。

それなのに手足が震える。

ナタリアさんも表情は強張り、手足が震えている。

声も。


逃げようにも背後の扉も律儀に閉じられていて、逃げようがない。

となれば戦うしかないのだけど、怖くて体が震えて言う事を聞かない。

このままじゃ死んでしまう。

動け、動けよ!


「うおおおおおおおおおおおああああああああ!!!!」


何かの漫画で、叫べと言っていた。

ケンカ慣れしていないと体が強張り無駄に力が入ってしまうとかなんとか……そんな事を言っていた気がする。

そうでなくても、叫ぶ事で発破をかけたり、体の緊張をほぐしたり出来ると思う。

そして、それが功を奏したのか、体は動くようになった。

まだ少し震えているけど、それでも動く。


「レント……さん?」

「動けますか?」

「無理です。体が、言う事を聞いてくれません……そもそも、こんなの勝てるわけが…「勝てる勝てないじゃない! 今あるのは、死ぬか、生きるかだけです。ナタリアさんは死にたいですか、生きたいですか?」

「生きたいに、決まってます。」

「なら、叫びましょう。こんな所で死ぬわけにはいかないんですから。無理してでも体を動かさないと。」

「……分かりました。……うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!」

「どうですか?」

「少しスッキリしました。後、動きます。……まだ震えてますけどね。」

「それは俺も一緒です。あんなのが相手なんですから、そんなの当然ですよ。」


顔を見合わせて苦笑した。

理由はよく分からないけど、お揃いなのがおかしかったのかもしれない。


「それじゃ、行きますか。」

「ええ。」

「「生きる為に!」」


こっちの準備が出来るのをきっちりと待ってくれていたドラゴンに向かって駆け出し、途中で方向を変えてドラゴンを軸に回るように走る。

震える手に力を込め直して一閃し、飛閃を飛ばす。

しかし、体に当たる前に何かにぶつかり弾けて消えてしまった。

多分、魔力障壁。

ただの飛閃じゃ無理か。

それ以前に、あの障壁をどうにかしない事にはどうしようもない。


ただの飛閃で無理なら、こいつでどうだ。


「飛閃・炎月!」


しかしこいつも弾けて消える。

少しは反応してくれてもいいんだけど、ドラゴンはこの程度の障壁も抜けない奴は相手にしないとばかりにその場から動こうとしない。

それどころか尻尾の手入れを始める始末。

にゃろう……馬鹿にしやがって。

なら、こいつでどうだ!


「炎よ、槍となりて敵を撃ち貫け。フレアランス! スキル重唱発動!猛れ猛れ、猛れ炎熱、炎猛りて業火となれ。疾れ疾れ、疾れ炎槍、音を超える閃きとなれ。穿て穿て、穿て、穿て全てを貫く閃光と成れ。今ここに言の葉を束ね大いなる力と成さん。魔法昇華! 完成!劣化炎槍フレイムガングニール!」


最初に発動させた時よりもレベルも上がりステータスも上がっていて威力はかなり上がっているはずだ。

未だ劣化なのが気になる所だけど、今は置いておく。

こいつで仰天顔でもしやがれ!


最後に追加で魔力を込めて炎槍を大きくして放つ。

真っ直ぐに飛んでいき、途中で障壁と衝突。

さっきまでの飛閃とは違い今回のは弾ける事なく拮抗している。


「いっけえええええええええ!!!」


気合いが通じたのか、炎槍は見事障壁を突破、ガシャァンという音を置き去りにドラゴンに向かって飛んでいく。

しかし、尻尾の手入れはしていても油断はしていなかったようで、ドラゴンはあっさりと炎槍を躱す。

ちっ!

そのまま食らってればいいものを。


障壁を突破したからか、ようやくやる気になったようだ。

嬉しさ九分九厘、恐怖残り全部。

障壁を突破きた嬉しさなんて1割にも満たず、恐怖心ばかり湧いてくる。

今すぐ逃げ出したくなるけど、それは出来ない。

敵は強大でこちらはたったの2人だけ。

圧倒的ピンチ。

だとしてもっ!

死ぬわけにはいかないのだから、やるしかないんだ!

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