第873話 ポーションの味しかしませんでした。的なお話
〜レント視点〜
騎士が剣を掲げるとそこから漆黒のオーラが溢れ龍の形になる。
普段の俺ならばかっこいいと目を輝かせているだろうけど、今はそんな余裕ない。
というか、自分にそれが向けられているのに興奮できるはずもない。
俺、
しかも最悪な事に、このタイミングで強化魔法が切れた。
少しずつ龍が大きくなっているこの状況で再度掛け直す時間なんてない。
タイミングを見計らってしっかりと回避をと言いたい所だが、不幸は重なるようで、背後にはナタリアさんがいる。
距離を取るときに無意識にナタリアさんの近くまで来てしまったようだ。
近くに仲間がいると安心できるからなのかもしれない。
そんなわけで回避は出来ず、俺に出来るのは素直に攻撃を食らうか、迎撃して相殺する以外にない。
あれを相殺出来そうな魔法となると浮かぶのは『劣化炎槍・フレアガングニール』と『スカーレットペネトレイター』。
しかし、そのどちらもスキル『重唱』を用いている。
重唱は一度完成した魔法に追加で詠唱する事でより強力に、また新たな魔法に変えることも出来るけど、その分詠唱時間が伸びる。
そして、今はそんな時間的余裕は、ない。
俺の技の中で詠唱要らずで1番強いのは断罪炎覇だ。
でも、あれを受け止めてその上で相殺なんて俺に出来るのか?
そもそも受け止めても衝撃をそのまま受けて吹き飛ばされたりしないだろうか?
……なんて考えている余裕ない!?
龍に翼が生えて来た!?
あれもう完成間近じゃね!?
受け止められないなら、受け止めずに斬り飛ばせばいい。
飛閃だ。
それもただの飛閃じゃない。
断罪炎覇からの飛閃だ。
炎属性の魔力を使っての飛閃が出来たんだから、断罪炎覇を飛ばす飛閃が出来たとしてとおかしくない。
いや、出来る出来ないじゃない。
やるか殺られるかだ。
殺られたくないから、やるしかない。
「断罪炎覇ああああああ!!!」
全力全開、出し惜しみなしだ。
あれがどの程度の力を持つかわからない以上、力を抜くことなんて出来るわけがない。
それよりもイメージをしっかりと固める。
大丈夫、飛閃・炎月が出来たんだから断罪炎覇も飛ばせる。
イメージは最後の月◯……いや、最後にするつもりないけど。
力失う予定もない。
とにかく、強大な斬撃を飛ばすイメージをするんだ。
騎士が、剣を少し後ろに傾ける。
片足を少し後ろに下げる。
……来る。
騎士が剣を振り下ろし、それに合わせるようにして翼持つ漆黒の龍がその顎門を開き食い潰さんと襲い掛かって来る。
俺も魔力を込められるだけ込めて、剣を振り下ろす。
「飛閃・煌牙ああああああああああああああ!!!!」
剣から放出される深紅の閃光。
それは漆黒の龍とぶつかり、ほんの少しの拮抗の後、漆黒の光を撒き散らしながら突き進み彼方へと消え去ってしまった。
いや、あの、えぇ……?
じ、自分でやっておきながら、この結果は予想外だよ。
というか、騎士は大丈夫……な訳ないか。
地面には大きな亀裂が走り、騎士がいた場所には剣とそれを握るようにくっついている肩から先の右腕と、縦に割いた左腕があった。
うわえっぐぅ。
中身がないのでまだ見れるけど、普通の人間なら……。
「はれ……頭がくらくら……あ、ロストマイン……ド……。」
〜ナタリア視点〜
レントさんがとんでもない威力の技で敵を消し飛ばし、辛くも勝利を収めた。
そして、1度に大量の魔力を消費したせいでレントさんはロストマインドに陥ってしまった。
あれはそうそう慣れる事もないですし、今回は強敵が相手で気が抜けてしまったという事もあり、気を失ってしまったようです。
その場にドサリと崩れ落ちたレントさん。
しかし、そう楽観視する事も出来ない。
何故ならレントさんは内臓を痛めているのだから。
あの騎士が消えた事で足が動くようになったようで、すぐにレントさんに駆け寄る。
手持ちのポーションの中でも特に効果の高いものを使い飲ませようとするも、気絶状態な為にうまく飲んでくれない。
「こ、これは、治療行為で、決してやましい事ではありませんわ。ですが、その、アカネ、ごめんなさい!」
ここには居ない友人に謝りつつ口移しで飲ませる。
初めてのキスは、ポーションの味しかしませんでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます