第872話 それは本音を表している。的なお話

〜レント視点〜


後ろで何か光った。

しかし、その光もこの騎士にはなんの意味もなく、上段に構えた剣が無慈悲に振り下ろされる。


「ぐっ、うぅぅぅぅ…」


なんとか防ぐ事には成功したが、呼吸が辛い……。

腹斬られた時の衝撃で肺の中の空気全部追い出されるし、なんか口の中に血の味してるし……というか血吐いた。

これ内臓損傷してるよな。

不味いな、これ。


「おおぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁ!!」


押し戻し、膝立ちから中腰、そして立ち上がって剣を弾き飛ばす。


「ゲホッ、ゴホッ……。」


あー、辛い!

血反吐吐くとか誇張表現でもなんでもなくマジで起こるんだな。

この防具が無ければ真っ二つだったかもしれないんだよな。

アイリスさんにはマジで感謝だ。

アイリスさんがこれ作ってくれなかったら死んでたって事だからな。

無事に戻ったらうんとお礼しよう。


「さて、仕切り直しといこうか。」


〜ナタリア視点〜


咽せるだけじゃなかった。

レントさんは血を吐いていて……それでもなお、立ち向かうつもりで騎士に剣を向けている。

どうしてそんなに強くいられるのか……どうして私は動くことができないの?

今ここで動かなくて、どうするというの……心は奮い立つのに、体は動いてくれない。

手を伸ばして魔法を放つのが精一杯。


そう思っている間にレントさんは駆け出す。

せめて、いざという時に手助けを出来るように、目を逸らさずに見ていよう。


レントさんは剣だけでなく蹴りも併用するようになった。

手数を増やすつもりなのでしょう。

ですが、それは諸刃の剣。

蹴りを繰り出す時に片足となりバランスが悪くなるから体勢を崩されると途端に不利になるのだから。


その懸念は当たり、堅実な戦いをする騎士が相手ではうまく防がれ、隙を作らせるどころか隙を突かれる始末。

慣れていない事も原因の1つでしょう。

そして相手は技術を駆使する騎士。

付け焼き刃では不利になるだけ。

結局レントさんは蹴り技を辞めて剣だけで戦う事にした。


ガンガンと、力強く剣を振るう。

流石にそれだけの威力を相手にするのは辛いようで、騎士も後退したり、回避したり、移動して距離を離そうとしたりとフィールドを使うようになる。

しかし、それは身体能力で勝るレントさんの方が有利。


逃げても追撃をかけて流れを掴む。

しかし、時折血を吐いている。

これは本当に不味いのでは?

早くポーションを飲まないと危険。

流れは掴めているけど、いつ動きが鈍るか分からない。

ならばここは……。


「灼熱の炎よ、渦巻く檻となりて彼の者を封じよ。フレアサークル。」


まだ魔法は待機させてタイミングをしっかりと見計らう。

まだ……まだ……。


レントさんの袈裟斬りに合わせて剣を打ち込み相殺、そのまま返す刃でレントさんが横薙ぎ、これを防ぎつつバックステップで距離を取ろうとする騎士。

ここでと行きたい所だけど、体勢が崩れ切っておらず、まだ回避される可能性がある。

それに、レントさんもまだ果敢に攻め立てている。


上段、斬り上げ、横薙ぎ、その力をそのまま活かした回転斬り。

そして渾身の袈裟斬り。

その連撃を全て防ぐものの、衝撃を受け止めきれずに大きく後退する騎士。

今!


「レントさん、下がってください!」


私の声に反応したレントさんは距離を詰めることはせず、バックステップで逆に距離を取る。

そして私の魔法、フレアサークルが発動する。

この魔法は半球状の炎の檻で敵を捕らえ、その間に体勢を立て直すことを目的としているが、副次効果として内部は異常な高温となるので、弱い魔物なら蒸し焼きにする事もできる。


「今の内に回復を!」

「分かった!」


しかし、そうは問屋が卸さなかった。


ーードンッ!


爆発するような音と共に私の魔法が霧散する。

そして中から現れる騎士。

その手に持つ剣からは漆黒のオーラが溢れている。

その剣を騎士は頭上に掲げると、漆黒のオーラが溢れ龍のような姿を形作る。


「おいおい……少しは休ませてくれよな。」


レントさんがつい零してしまった言葉。

ついだからこそ、それは本音を表している。

それには同感で、本当に、少しは休ませてくれても良いのですよ?

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