第830話 後は蒼井に交代するだけ。的なお話

「そーいえば……さあ。」

「?」


なんかランが少し遠くを見ながら言い辛そうにしながら言葉を発する。

なんだろう?

そんなに言いづらい事なんだろうか?


「リリンって、レントのお嫁さん……だよね?」

「そうだけど……それがどうかした?」

「その……夫婦として一緒に過ごしてみて、リリンの気配察知の良さとか速さとかの秘訣みたいなの……何か分かったりする?」

「ああー、言い辛そうにしてたのはそういう事……自分が勝負持ちかけたのに負けっぱなしでなんとか勝ちたくて秘訣を聞きたい、と。」

「そうだけど、わざわざ口に出さないでよ!」

「あはは……ごめんごめん。」


砕けた喋り方でって言われてすぐにでなんだけど、すごく馴染む。

というか、なんか楽しい。

この感覚はアカネと日本に関する事話してる時に感じる、凄く身近な感覚に似てる。

多分それがランの持つ雰囲気のなせる技なのだろう。

……情報収集をしてる人がそれって、ポロっとなんらかの情報とかこぼしてしまいそうで怖いな。

ラン、恐ろしい子!?

……こほん。


「秘訣って言われても特に思い浮かばないなぁ〜。ただ1つ言えるのは、リリンは何ていうか、持ってる人、なんだよね。」

「持ってる人?」

「才能とか運の良さと、そういう星の巡りの元に生まれてるとか……そういうの。リリンって、色々と才能が豊富で、もう流石リリンって感じなんだよね。」

「そういう……生まれ持った英雄の器……リリンがそうだって言うの?」

「そんな大それたものじゃないけどね。ただまあ、カードゲームとかカジノとかでもなんだかんだでリリンが勝ってる事が多いからね。だから、流石リリンなんだよ。」

「そっか……はぁ、なんか凄いね。」

「自慢の嫁の1人だからな。」

「でも、悔しくないの?」

「悔しい? なんで?」

「だって、負けてるんだよ? それも何度もなんでしょ? 普通は悔しいよ。私は悔しくて悔しくて仕方がない……。」


ランは意外と負けず嫌いなんだな。

こうして2人きりで話してみると、やはりというか、これまで知らなかった事を知ることができるな。

周りに誰もいないからこそ話せる事もあるだろうから。


「悔しくない……といえば嘘にはなる。でも、悔しくはないよ。」

「今すごい矛盾してること言ってるって、分かってる?」

「分かってる。でもさ、俺は俺、リリンはリリンなんだよ。リリンと俺じゃ戦闘スタイルが違い過ぎるし、性別も、生まれも、何もかもが違う。リリンはスピードは凄いけど、一撃の威力なら負ける気は無いし、なんだったらパーティ内で1番だとすら思ってるよ。ランは性別一緒だし戦闘スタイルは似てるかもしれないけど、でも、それでもランはランじゃないか。相手の良いところばかり見て自分の良いところを見ないのは良くないし、相手の悪いところだけ見て見下すのも良くない。なんて言ってもそう簡単にはいかないけどね……。」


うん。

たとえ良い人でも見た目が恐けりゃまともに接せるかどうか分からない。

というか、カルロの時もスッゲー困ったし。

他に凄い良いところがあったとしても性格が合わなければ大っ嫌いと思う相手だっていると思う。


「全然答えになってないけど、自分を否定せず肯定出来さえすれば良いと思うよ。」

「本当に答えになってなくてびっくりだよ。」

「あはは……まあ、どれだけ悔しくて、羨ましくて、妬ましくても、自分を見失わなければいい。自分はこれが優れている、自分はこうなんだって認めてさえいれば、受け入れられるよ。むしろ、色々と違うからこそ、一緒に居られる。良いところもダメなところも同じだと同族嫌悪になるだけだろうしさ。」

「分かったような……分からないような……。」

「俺も良く分かってない。その場の勢いで言ってる。」

「全然ダメじゃん!」

「でもまあ、負けるのが悔しいなら、何故負けるのかを分析し、相手を研究し、対策し、模倣し、学習する。まずはそこからかな。それで駄目ならあとは泥臭い努力のみ。」

「定番過ぎてツッコむ余地が無いよ。」

「……そうだな。」


その場の勢いでなんかごちゃごちゃ言っちゃったけど、それで何か得られるものがあったのだろうか?

少しばかり不安になる。

でもまあ、まだ18の若造だしね。

悔しさを一発で晴らせる程の人生経験はなし。

なら勢いで言ってしまっても仕方ないさ。


こんな感じで無駄話だけで見張りの時間が過ぎた。

それじゃあ、後は蒼井に交代するだけ。

交代したら後は任せておやすみっと。

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