節分番外編
もうじき節分だなぁ。
この世界には実際に鬼……まあ、オーガだけど、鬼がいるから節分で豆まきをする意味があるのかなぁ? って思わなくもないけど、こういうのは様式美だから。
後、やる事に意味があるのであって実際にいるかどうかは関係ないさ。
……オーガに豆が効くのかちょっと試してみたいけど。
アリシアさんなら2月3日のみオーガ特効設定しててもおかしくないし。
というわけで豆を買っています。
ただ、驚いた事にこの世界には節分という文化がまだ無いのだ。
何故に?
イベント大好き日本人がこれまでに何度も転移転生召喚されて来たはずだ。
なのに何故節分は普及させていない!?
逆にその事実が怖いんですけど!?
節分に何かあるのか!?
そう思うと節分をしようというのは躊躇われるが、なんか急にやりたくなったのだ。
もうすぐ2月か〜と思ったら節分目前じゃん!? って思ったのがきっかけ。
「所で、その豆はどうするの?」
一緒に買い物をしていた面々の中で節分を知らない子達は頭を傾けていて、その疑問を代表するかのようにセフィアが聞いてきた。
「まくんだよ。」
「え、園芸でもやるの?」
「違う違う。鬼に向かってまくの。」
「なっ!? お、鬼に向かってだと!?」
「どうしたんだ急に?」
突然ユキノが驚いたような声を出す。
そんな変な事言ったかな?
「いやだって、鬼に投げるのだろう? それはいくらなんでも可哀想……というか、辞めてもらいたいのだが……。」
「なんでそんな……ひょっとして、鬼に関係する人が知り合いにいたりするのか?」
「ああ。我が祖国ヤマトには鬼人族という種族がおり、神事における巫女を務めるのもその鬼人族なのだ。」
「ああ、そういう事。それで嫌がったのか。」
「そうだ。」
「なら安して。この鬼ってのは簡単に言うと悪しき存在とかそういう概念的なもので節分の豆まきは不幸や病魔、厄災が来ませんようにっていう一種のお呪いだ。だからその鬼人族を見つけたら追いかけ回して豆をぶつけたりはしないんだ。」
「そ、そうなのか。それなら良かった。」
安心したようで何よりだ。
というわけで豆は無事に確保。
後で炒るとして、次はお面だな。
こっちの世界に画用紙のような厚くて丈夫なのってあんまり無いんだよな。
羊皮紙はちょっと硬いけどなんか違うし、ここは一つ、木を削って作ろうかね。
細工スキルでなんとかなりそうだし、色もルナの絵の具を借りて塗ればいい。
木材も買って宿に帰る。
宿に着くとレイちゃんへの挨拶もそこそこに部屋へと篭りゴリゴリと木を削っていく。
作るのは鬼だけど、別に怖くする必要はない。
いや作れるけどね。
でももしその姿を街を行く少年少女が見たら泣いてしまうかもしれない。
だから怖くしない。
ちょっとかわいい感じでいい。
角を作り目の穴を開け、耳を作る。
髪の毛はどうしようかな。
動物の毛とかを染色してやるのもいいけど、今から買いに行くのもなぁ……。
この木の削りカスをくっ付けて色をつければいいか。
結構な数だしモジャモジャ感を上手く表現できそう。
所で、なんでこういう鬼っていつもモジャモジャイメージなんだろうな?
◇
節分当日。
せっかくのイベントだからとアデラードさん、アイリスさん、リナさんも一緒にやらないかと誘ってみたところみんな参加という事になった。
その際にアデラードさんが会場を提供してくれた。
感謝です。
もちろん準備はちゃんと済ませた。
「ねぇ、節分ってどんな事やるの?」
「簡単に言うと鬼のお面を被った人に向かって豆を投げるんです。で、それが終わったら自分の年齢+1個の豆を食べるんですよ。」
「へ、へー。」
アデラードさん、400超えですからね。
絶対口の中パッサパサになるし飲み物用意しておこう。
「後は夜に恵方巻きっていうのを食べますね。その年の恵方を向いて喋らずに食べる事で幸運を取り込むみたいな感じですね。喋ると幸運が逃げるそうですよ。」
「恵方ってどこ?」
「さぁ? まあ、異世界だし適当で良くないですか?」
《今年の恵方は東北東ですよ》
「うわっ!? 頭の中にアリシアさんの声が!? なんか、今年の恵方は東北東って聞こえてきた!」
「あ、そうなんだ……。」
どうやら下界を覗いていたみたいだ。
「ねぇ、レントが地球にいた頃はどんな風にやってたの? その通りにやってみたいんだけど。」
「いや〜、それはやめた方がいいよ。」
セフィアがウチのやり方でやりたいって言ってきたけど、流石にあれはオススメできない。
「実は豆はまいたものを食べるって方が良いんだよ。でだ、そうなるとたとえ家の中でも床に落ちるのはあまり良くないだろ?」
「確かにそうだね。」
「だからウチではレジャーシート……あー、ピクニックとかで外に敷く物を綺麗に洗って床に敷くんだ。それだけじゃなくて鬼役の人、ウチでは基本父さんだったな。その父さんがそのレジャーシートの上で鬼をやるから当然足が汚いと良くない。だから……」
「だから?」
「だから、いつも父さんは母さんに足の裏を徹底的に洗われるんだよ。擽ったくて大笑いしても全然止めてもらえず、終わった頃には息も絶え絶えといった感じになってる。」
「うわぁ……。」
その辛さを想像して顔色を少し悪くしてるよ。
まあ、凄く辛そうだったからなぁ。
『あははははははははは!! も、もう、やめ……うひひ、あははははははははははは!!』
『まだよ! 徹底的にやんないと安心出来ないでしょ!』
『も、ほんと、かんべ……いひひひひひっ、あははっ、ヒーッ、うえっ、ははは……』
こんな感じだったなぁ……。
「子供の頃は風呂場から漏れ聞こえるその不気味な笑いに鬼降臨の儀式だと思ってひどく怯えていた事を憶えている。」
「……普通にやろうか。」
「それがいい。」
そんなわけで普通に豆まきをする事になった。
こういう時の鬼役は大抵家長とか、年長者とか、教育者とかで……全部アデラードさんなんだよな。
しかし、豆の入った枡をワクワクとした顔で持っているのを見るとお願いするのは躊躇われる。
………………よし。
「ハラルドさん鬼役お願いします!」
「かしこまりました。精一杯頑張らせていただきます。」
ナイスミドルな見た目で一番年長者っぽいからね!
見た目って重要だよね!
「掛け声は鬼は外、福は内ですよ。鬼……悪しきものを追い払い、福……幸運とかを家などに引き込むっていう掛け声です。」
「分かった! 鬼は外、福は内だね!」
「じゃあ行きますよ。せーの!」
「「「鬼は〜外! 福は〜内!」」」
こうして節分を楽しんだ。
ちなみに、話の流れで実際にオーガに投げてみようという事になり森で試してみたら、5投程で動かなくなった。
本当にオーガ特効かよ……。
今日だけだろうけどさ。
これ、複数で一斉に投げれば一撃で倒すようなものだ。
一言で言えば稼ぎ時だ。
その後、食べる分の豆以外を使い切るまでオーガ狩りをしたのは言うまでもないことだろう。
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