第763話 もっと多くてもいいんだよ? 的なお話

さっきの反省から早めに魔力障壁を準備する。

といっても、模擬戦開始前から準備するのはなんかずるいから模擬戦中になんだけど。


セフィアの回転4連撃をバックステップで躱し、距離を取る。

魔力障壁が完成するまではむやみに接近させず、回避優先で時間を稼ぐ……わけがない。

ただの模擬戦なのに消極的でいては、実戦でまともに戦えるはずがない。


「はぁぁぁぁっ!」


わざと大振りにしての袈裟斬り。

そんな大振りでは当然のように躱される。

だが、これは単なるフェイント。

本命はこの次。

それはセフィアも分かっているだろう。

俺が取れる選択肢はそのままの勢いでの回転斬りか、あるいは手首を返しての薙。

俺が選択したのは、勢いは殺さずに回転、しかし、斬撃(木剣なので実際は打撃)ではなく、回し蹴り。

この不意をついた攻撃はフェイントの次は何かが来ると考えいたセフィアが事前に下がって攻撃範囲から離れていた所為で不発に終わってしまった。


けど、この一連の攻防の間に魔力障壁の発動に成功。

これがあればもっと攻められる。


攻撃攻撃攻撃。

セフィアの反撃は右手の剣と左手の魔力障壁で防御しつつ攻撃をする。

回避ではなく防御をメインにした結果超接近戦となり、スピードに翻弄されることは無くなった。

まあ、至近距離でセフィアの手数を防ぐというのはなかなか大変なんだけど。

どっちが楽なのかは分からないな。

でも、なんか楽しい。

大変なんだけど、それが逆に楽しい。

対戦ゲームなんかで、相手が雑魚すぎるとつまらないが、ある程度実力伯仲だと勝つか負けるかギリギリの戦いが大変なんだけども楽しかったりする。

あの感じに似てる。


セフィアも魔力障壁を使用してきたので、防御に回していたリソースを攻撃に回してきた。

その結果更に手数が増えてきた。


くっ!

キッツ……。

こちらも手数を増やす為に軽い膝蹴りなんかを混ぜるが、それらは防がれ、逆に片足が浮く事によるバランスが不安定になる瞬間を狙ってくる。

それによってバランスを崩し、たたらを踏む俺に追撃するセフィア。


側転をして躱し、着地と共に地面を強く蹴って接近。

渾身の力を込めての右薙。

その力によって防御を崩す。

その隙を逃さず左のボディブロー。


「かはっ!」

「って、わぁぁぁ!? ごごご、ごめんセフィア! 大丈夫か!?」


しまった!

魔力障壁で固めた左手での一撃はガントレットによる一撃といっていい。

魔力障壁で一応防御をしていたみたいだけど、衝撃の全てを防ぐことはできなかったみたいだ。

軽く体が浮いていたし。


「けほっ……大丈夫。やっぱりレントは力強いね。」

「本当に大丈夫か? あざになってたりしないよな? ポーション飲むか?」

「心配しすぎだよ。本当に大丈夫だから。」

「何か違和感とかあったらすぐに言ってくれよ? そしたらアデラードさんのツテを頼って世界最高の医者を用意してもらってもいいからさ。」

「いやいや、そんな事してもらう必要ないから!」


世界最高はやり過ぎかもしれないが、それくらい辞さないって意思表示だ。

実際、みんなに何かあったら迷わずにそうするだろう。


「おつかれ〜。手ぬぐい持ってきたよ。」

「ああ、ありがとう。そういえばフランは次はどこに行くつもりなんだ?」

「え、特に決めてないよ。それにお金もちょっと心許ないし。」

「そうか。……じゃあとりあえず50万くらい渡しておくか。」

「いやいやいやいやいや! 多いから! 50万とか多いから! というかわざわざくれなくてもいいから!」

「遠慮する必要はないぞ。そんなに気になるなら、また美味いもん買ってきてくれ。それはその為の調査費用と購入資金とでも思ってくれ。」

「本当にいいから!」


お金を渡そうとする俺と、受け取らないフラン。

普通は催促する側と渡したがらない側になるはずなんだけど、今回はちょっと変わってる。

ドラマなんかだとたまにあるけど。

離婚して嫁や嫁に引き取られた娘に結婚式の費用とか、振袖代とかで100万渡そうとして、帰ってって言われる父親とかさ。

……やっぱこの例えは無しで。

なんか、変な関係に見えてきそうだし。


あーだこーだと言い合い、結局フランは10万だけ受け取った。

最初の5分の1じゃん。

もっと多くてもいいんだよ?

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