第754話 みんなに聞いときゃよかった。的なお話
ーーぐうぅぅぅ
誰のものかは分からないが、お腹がぐーぐーへりんこファイヤーデスって訴えてきた。
ちなみに俺の腹もそのすぐ後に主張した。
「そういえば、お昼まだだったな。今の時間は……1時26分か。」
そりゃ腹も減るわ。
「す、すみません! 本来ならば私から言うべき事なのですが気付かずに……すぐに昼食の準備をしますね。」
監督不行き届きだと思ったのだろうカンナさんは慌てて工房から出て行く。
俺達は顔を見合わせると軽く苦笑をする。
片付けが全くしていないからだ。
さっきまでまとまった話の内容を書き込んでいた槍の設計図は置きっ放し、筆記具は散らかりっぱなし。
それに、水の魔道具もライトロッドもそれらの材料は全て出しっ放し。
それらがどれだけ慌てていたかを如実に表している。
「片付けでもするか。」
「そうだね。」
流石に全部元どおりというわけにはいかないけど、設計図は丸めた後に紐でくくり、筆記具は全部まとめ、削ったりして出たカスなんかは掃除をし、使わなかった材料は元のケースへ、使った工具類も元のケースへとしまう。
そうした片付けを終えて食堂へと向かうところで探しにきていたであろうカンナさんがやってきた。
「あれ!? まだここにいたんですか?」
「片付けをしていましたから。」
「あっ! そ、そそそれは、申し訳ありません! 本来ならば私がすべき事なのにレント様達にやらせてしまい……。」
「気にしないで。使ったら片付けるってのは日本じゃ普通でしょ?」
「…………くすっ。そうですね。でも、すみませんでした。それと、ありがとうございます。」
少し口をポカーンと開けた後、くすりと笑うカンナさん。
異世界なのに日本での普通を言ったものだから可笑しいと思ってしまったのだろう。
俺自身、それを狙ってたし。
メイドとしての仕事はあるだろうけど、同じ日本人だ。
あんまりかしこまられるのも困る。
どこかやりにくいと感じてしまうから。
「えっと、お昼ですが、先輩達がすでに準備を済ませているのですぐにでも食べられるそうです。」
「分かりました。すぐに向かうと伝えてきてください。その間に手を洗ってきますから。」
「分かりました。」
手洗い大事。
健康は日常での予防が大事なのだ。
お昼を済ませるとみんなは上手くいかなかった魔道具のリベンジをするそうだ。
それに対して俺は……。
「こんにちはー。」
「おう、レント! 今日はどうした?」
「ちょっと変わった武器を作ろうと思いまして。」
「ほう?」
「魔道具と武器の融合ですね。」
「魔道具と……それってちゃんと使えんのか?」
「それを含めての実験です。」
「そうか。ま、工房を壊さなきゃいい。好きにやりな。」
「ありがとうございます。」
グラハムさんのところで槍の試作をするのだ。
狩猟大会までに間に合わせようとは考えていないが、早いに越したことはないからな。
それに、これが上手くいけばあの大剣も実現に近づける気がする。
まずは槍の穂先かな。
突貫する事を前提にしているからある程度幅があった方がいいよな。
折角魔道具部分が上手くいっても突貫の位置がちょっとズレただけで上手く当たらないなんてことにならないよう少しでも幅ある方がいいだろう。
というわけで大きな三角形のような穂先を作ってみたんだけど……少なくとも鉄じゃ無理だ。
重過ぎる。
仮作成で木の柄を使ったんだけど、先が重過ぎで折れてしまった。
柄も金属にすればと思わなくもないが、それでも穂先が重いということには変わりなく、ちゃんと扱えるのかという問題もある。
少なくとも、俺が軽く振ってみた分では問題がある。
「どうだ?」
「駄目ですね。先が重過ぎます。」
「ま、そんだけでかけりゃな。もう少し小さくしてみたらどうだ?」
「そうしてみます。でも、それは明日ですね。」
お昼が遅かったというのもあったし、慣れない作業ということもあって既に日が暮れてる。
「それもそうか。んじゃ、また明日。」
「はい。また明日。」
さて、こうして帰路につくわけだけど、俺はどっちに帰ればいいんだ?
みんなに聞いときゃよかった。
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