第673話 さあ、デートをしようじゃないか。的なお話

ごまかしているとアデラードさんは言った。

俺が何をごまかしているのか分からない。

俺は何もごまかしてなんかいないはずだ。

そんな風に考えながらぼんやりと月を眺める。


地球の月にはウサギが住んでいたけど、こっちの世界に住んでいるのもウサギなんだなぁ。

でもこっちのは餅をついていなくて2羽のウサギが戯れているように見える。


ーーコンコン


おや、誰か来たようだ。


「レント、いる?」

「アデラードさん? どうしたんですか?」

「ちょっと入っていいかな?」

「いいですけど。」


開けたドアの先にいたのはパジャマを着ているアデラードさん。

貴族が着ていそうな色っぽい寝巻きではなく、可愛らしいやつ。

そんなアデラードさんが気まずそうな顔してやってきた。


「あー、えっと……ごめんね?」

「え? 何がですか?」

「ほら、勝手に明日の予定決めちゃったからさ。」


あー、それを言いに来たのか。

それで、どこか気まずそうだったのか。


「別に気にしてませんよ。俺もさっさと決断すべきだとは思っていましたから。」

「そう言ってくれると助かるよ。でも、本当にごめんね。」

「本当に気にしてませんから。」

「ありがとう。じゃあ、私はアカネの方にも謝りに行くから。おやすみ、レント。」

「はい。おやすみなさい。」


最近アデラードさんが本当に可愛くて仕方がない。

最初の頃のから回っていた頃はとてもじゃないけど相容れない存在だと思っていたはずなのに、気づけばこんなに愛おしいと思えるようになってしまっている。

本当に、人生何があるのか分からない。


そう、愛おしいだ。

アデラードさんに限らず、セフィア達には愛おしい、大切だ、護りたい、絶対に欲しい、誰にも渡さない、といった思いが心の底から湧き上がってくる。

同時に、愛されたい、かっこよく見られたい、認められたいといった思いも湧いてくる。

好きというのはそういうことじゃないのか?

そういう、心の底から湧き上がる感情が無い以上、アカネに対する想いは恋愛感情じゃ無い……はずだ。

だから……いや、今決めつけて明日のデートに望むのはおかしいしアカネに失礼だ。

こんなくだんないこと考えてしまうし、さっさと寝よう!


頭の中空っぽにして、ちゃんとアカネと向き合って、それで決めるんだ。



朝になった。

つまりデートという事だ。

だからだろう。


「えーと、上はこれがいいかな。下はこっちの黒いのの方がいいかな。」

「レント、これ。」

「…………なぜ猫耳カチューシャ?」

「夜、楽しんで。」

「ああ、お兄さんちょっと屈んで。寝癖ついてるから。」


嫁さん達、主にセフィア、リリン、ルリエだが、嫁さん達が俺を全身コーディネートしてくる。

それとリリン、そもそもそういうことはしない健全なデートだぞ。

だから、猫耳カチューシャと対になる猫尻尾も渡さなくていい。

これはリリンのお気に入りだろうに。


「はいこれ! 今日の勝負服だよ。もう時間がないから急いで。」

「急ぐも何も、時間とか決めてないんだけど?」

「そうだけど、女の子を待たせちゃいけないじゃない!」

「え!?」

「だから急いで! 広場のベンチのところで待ち合わせだから!」

「わ、分かった!」


セフィアに渡された服を着込み、ついでにほんの僅かなアクセサリーで俺を飾りつける。

中高は制服で服とか何も考えなくて楽だと考える俺なので、こうして選んでくれるのは非常に助かる。

最後にどこか変なところがないか一回転して確認してもらってから、急いで広場のベンチに向かう。


走って軽く乱れた息を整えながらアカネの姿を探すがどこにも見当たらない。

ちゃんとセフィアが言っていたはずなのにと考えたところで、ふと思い至る。

セフィアが、アカネが先に出たなんて一言も言っていなくて、こうしてアカネがいないということはつまり、セフィアに謀られたということに。

やられた。


「遅れてごめーん! 待った?」


後ろからそんな風に声をかけられる。

なるほど、確かにこれはデートの定番だ。

多分、これがやりたくてアカネがセフィアに頼んだのだろう。

だからその意を汲んでこう返す。


「いや、俺も今来たところだよ。」


さあ、デートをしようじゃないか。

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