第661話 バーカ。的なお話

〜アカネ視点〜


「い、いいのか、あのままで。」

「いいのよ。お父さんには頭を冷やす時間が必要だしね。」


それに、帰ったとしても私の居場所があるとも思えないしね。

一度奴隷になったような娘では周りから何を言われるか……ただでさえ一度冤罪をかけられた家なのだ。

そんな家の娘が元奴隷なんて、父を疎んじる貴族からしたらいい攻撃材料だ。

たとえそれが不可抗力だとしても。

そうならないためにも、私はあまり近づくべきではない。

少なくとも、地盤を固め直すまでは。


「それよりも、さ。返事、聞かせてくれない、かな?」


〜レント視点〜


「それよりも、さ。返事、聞かせてくれない、かな?」


アカネはそう言う。

返事というのはさっきの告白のことだろう。

しかし、本当にアカネは俺のことが好きなのだろうか?

これまでそんなそぶりは見せてなかった気がする。

確かに距離感は近かった。

でもそれは前からだ。

同じ日本人。

アカネは転生だけどそれでも日本で生き、日本で過ごした同郷。

それ故に他の人よりもずっと俺に近い人間だった。

だからこその近さだと思っていたんだけど、そうじゃ無かったのか?

分からない。


「あ、あのさ。さっきの告白は、本気、なんだよな? ここにいるための嘘じゃ……ないんだよな?」


〜アカネ視点〜


「あ、あのさ。さっきの告白は、本気、なんだよな? ここにいるための嘘じゃ……ないんだよな?」


レントはこう聞いてきた。

突然のことに混乱しているのだろうし、そう思うのも仕方ないのかもしれない。

だから、ハッキリと言ってあげる。


「ええ、もちろん本気よ。私は本気でレントのことが好き。愛しているわ。優しいあなたが好き。誰かの為に頑張れるあなたが好き。笑っているあなたが好き。少し抜けてるあなたが好き。努力家なあなたが好き。一緒にいて楽しいあなたが好き。女の子に好かれるあなたが好き。セフィアのことが好きなあなたが好き。リリンのことが好きなあなたが好き。ルリエのことが好きなあなたが好き。レイダのことが好きなあなたが好き。シアのことが好きなあなたが好き。ルナのことが好きなあなたが好き。リナのことが好きなあなたが好き。アイリスのことが好きなあなたが好き。アデラードさんのことが好きなあなたが好き。私は、あなたの全てが好きです。さっきお母さんに聞かれたの。どうしたいのかって。それで私はあなたと付き合いたい。結婚したいって答えたの。その言葉がストンって心に落ちて、ハッキリ分かったの。私は、理屈でもなんでもなくあなたのことが好きなんだって。それまで私は色々自分に言い訳していたの。貴族だから、家が大変だから、相手は結婚しているから。でも、そんなのどうでもよくなっちゃった。ただ、私はあなたのことが好きなだけ。だからそのことを伝えようと思ったの。」


まあ、なんのかんの言ったけども、実際は理由なんてあってないようなものなのよね。

ただ、蓮斗の事が好きなだけなのだから。

理由なんて後からいくらでもつけられる。

でも必要な事でもあるから言ったのだけれども。

セフィア達の事を言って、他にも好きな人がいてもいいと教えているの。


「レントはどうなの?」


〜レント視点〜


「レントはどうなの?」

「俺は……」


俺はどう思っているのだろうか。

アカネのことは好きだ。

それは間違いない。

でもそれは、果たして愛なのか……分からない。

同じ日本人ということでなんでも話せる、気の会う友人のような関係。

アカネはかわいい。

それは客観的に見ても主観的に見ても、間違いはない。

アカネの性格は好ましい。

特に気兼ねせずに接せるのはいい。

こうして上げてみればいいと思う点ばかりだ。

でも、やっぱり分からない。

セフィア達に対するような思いではない。

しかし、アカネを誰かにやるというのは我慢ならない。

俺は……。


「ごめん、アカネ。俺はアカネとは付き合えない。」


〜アカネ視点〜


「ごめん、アカネ。俺はアカネとは付き合えない。」


あーあ。

振られちゃったか。

まあ、仕方ないよね。

こうなることは予想できていたし。


「俺は、まだよく分からないんだ。俺はアカネのことが好きなのかどうか。好意的に思ってるけど、それが愛なのがどうか、分からない。同じ日本人だということが関係しているのかもしれない。だから、分からない。」

「そう……。」

「だからアカネ。もうちょっとだけ、時間をくれないか? アカネとどうなりたいのか、それを考える時間をくれ。」


全く。

そんなに悩むくらい揺れてるなら普通に付き合えばいいのに。

バーカ。


「しょうがないから、もうちょっとだけ待ってあげるわ。」


でも、そこがレントらしいのよね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る