第594話 早速着替え行こう。的なお話
〜アデラード視点〜
まず、大衆食堂は駄目。
あれはあれで美味しいのだけど、食事の格的にも防犯的にも伯爵と食事の場所とするには向かない。
かといって高ければいいというものでもない。
そういう所は大概行ったことがあるだろうから。
つまり、今回求められるのは伯爵をもてなすのに際してギリギリのラインに入るレベルの食事が出てきて尚且つ個室があり、店の見た目も綺麗でなければいけない。
めんどくさっ!
そうして案内した店は2ヶ月ほど前に出来たばかりのお店。
幸いな事にギリアムはまだ来たことがなかったようで普通に食事を楽しんでくれたようだ。
「美味しかったですね。」
「そうですね。」
ギルドに戻り、再び仕事の話へ……のはずだった。
「と、ところで、ですね……実は私のところにある噂が入って来まして……。」
「噂? どんな?」
なんだろう?
まさか、どこかで良からぬことを企む馬鹿が現れたとか?
そういうのはもう勘弁して欲しい。
「アデラード様が、とある冒険者パーティを贔屓にしているという噂です。もちろん、アデラード様も人ですから多少の優遇をしてもおかしくはありません。ですが、あれは幾ら何でも行き過ぎです! 少し調べさせてもらいましたが、ここ最近は妙に頻繁に出入りしている宿があり、そこで酒宴を開きそのまま泊まり、あまつさえ自身の屋敷に招く始末。これは一体どういうことですか!?」
「どういうことも何も、あのパーティには私のはとこも参加してる。はとこと一緒にお酒を飲んだり、家に招くくらい何もおかしなことはないよね?」
「ええ。それだけならば。しかし、弟子に取ったそうじゃないですか。そしてここ最近の重要な案件にも同行させ大きな利益を上げさせています。これは幾ら何でもやり過ぎです。あなたは、自身の影響力を軽視し過ぎです! アデラード・エリュシオン様!」
「私はただの男爵だよ。そんな私に大した影響力なんてあるわけないじゃない。」
「ふざけないでください! それもあなたが固辞したが故。その気になればもっと大きな……」
「ふざけてないよ。私は、ただの、男爵だよ? 男爵にそんな力あるわけない。……分かるよね?」
「っ! し、失礼、しました……。」
………はぁ。
確かに、かつて私は勇者を育て、その勇者が世界を救った褒美としてもっと上の爵位と勲章、そして莫大な報奨金を授ける。と、言われたことはある。
でも、そんなのはめんどくさいだけだから断った。
それでも私は最後の勇者を育てたとして、この国、いや、この世界においてかなりの発言力が、残念ながらある。
だからこそ、出来る限り国家運営やらなんやらから離れられるように男爵だけ貰ったのだ。
なのに、今更影響力とか言われても、困るだけだ。
まあ、気持ちは分からなくもないけど。
自分で言うのもアレだが、私はこの国でもトップクラスの実力者だ。
そして迷宮都市の冒険者ギルドギルドマスター。
魔道具の動力源たる魔石はダンジョンからのみ産出される。
そしてここリステルにあるダンジョンはこの国でも最大のダンジョン。
つまり、もしも私が冒険者に呼びかけてダンジョン探索をやめさせればこの国の運営に大きな打撃を与えられるだろう。
彼はそれを恐れている。
このまま私がレント達を優遇し続けて、今の国と冒険者ギルドとの関係が崩れてしまうことを。
「さっきも言ったけど、私はただの男爵で、国の運営に口を出せない。そして、私はそういうことには興味はない。……それが分ったならこの話はもうおしまい。」
「………わ、分かりました。つ、次は、3週間後の奴隷市に関してですが……」
その後は特に問題もなく、仕事の話は終わった。
◇
「はぁ〜〜〜〜。終わったぁ。あー、もう4時か。……レント達どうなったかな?」
すっごくめんどい仕事したからレントに会いたくなっちゃった。
うん。
まだ訓練してるだろうし、会いに行こ!
そうと決まれば早速着替えて行こう。
一応お偉いさんと会うからそれっぽい格好してたんだよね。
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