【第六章】迷宮都市でのいろいろ。その2

第559話 今度潜ってみようかね。的なお話

1週間後からアイリスさんと恋人になるということになった。

とはいえ、それはまだ先。

それよりも大事なのはアイリスさんの邪魔をしないことだ。

ここで談笑でもして仕事の時間が足りなくなるのは良くない。

流石に、契約不履行で奴隷落ちなんてことはありえないが、それでも遅れたからといって値下げする羽目になるなんてのは申し訳ないことこの上ない。

というわけでさっさとお暇をする。


「あ、もう帰るんすか? もう少し、こう…………なんかないんっすか?」

「いや、せっかく注文が入ったのにおしゃべりしてて遅れましたじゃ流石に悪いかなって思って。それに、正式に恋人になるのは1週間後だしさ。」

「それはそうっすけど……。」


理解はできるけど……という顔だ。

仕方ないか。

こういうのって、ちょっと恥ずかしいけど……


「え、なんっすか?」


ーーチュッ


「え……?」

「い、今はこんだけで……じゃ、じゃあ、俺はこれで帰る……。」

「あ……はいっす……。」


うはぁっ!

やっぱ恥ずい!

口にはしなかったものの、口に結構近い頬にキスをした。

漫画とかでこういうのがあって、つい行動してしまったけど……こんな恥ずいことよく平気だよな。

……………よく考えたら普段から嫁達とそういう雰囲気になって周りに呆れられてる。

だが、そっちは周りが見えてないだけだ。

それに対して今回はまだそういう感じじゃなくて、客観視出来てしまう。

客観視出来てしまうから恥ずかしいと感じてしまうのだ。


とりあえず……宿帰ろう。

今たぶん顔真っ赤だし。


とか思ってる時になんでこいつと出くわすんだよ。


「あれ? もう帰ってたの………って、どわっ!? 急に何すんだよ!?」

「っち! うるさい。ただの八つ当たりだ。だから黙って殴られてろ。」

「嫌だよ! 八つ当たりだって言われてハイそうですかって殴られる奴なんかいるか!」

「使えねぇ奴。」

「俺はお前のストレス発散道具じゃねぇ! ……ったく。何があった?」

「何もねぇよ。ただ嫌なタイミングで会ったから殴りたくなっただけだ。」

「なんだそれ……。」

「ま、そういうわけなんで、じゃあな。あ、浮気もほどほどにしとけよ。」

「してねーから! ほどほども何も一回もしたことねーから!」


馬鹿の叫びを背に宿へと帰る。

流石に顔の赤さも引いてるだろうし、その点は馬鹿に感謝だな。


「おかえり、レント。あれ? アイリスさんは?」

「ん? アイリスさんなら仕事があるから来てないけど?」

「そっか。」

「どうだった? もうした?」

「ぶっ!? い、いきなり何言ってんだリリン!?」

「少し遅かったから、もうしたのかと。」

「するわけないから! というかまだ恋人じゃないから!」

「え? まだって、どういうことなのさ!?」

「いや、まだ借金があるのに恋人になっても胸を張れないからって言われて、だから1週間待つことになったんだ。」

「なんで1週間?」

「いや、その話をしてるところに冒険者パーティが客としてやって来て………その結果返す目処が立った。そして納品が1週間後だから、恋人になるのも1週間後ってことになった。」

「なんだ……そういうことだったの。てっきり、レントがヘタレたのかと思ったよ。」

「酷っ!? 流石にそれはないよ!」

「本当かな〜? 実は緊張してて店に入るのに時間がかかったんじゃないの?」

「うっ! い、いや、確かに緊張はしてたけど……そんなに時間はかからなかったはず…。」

「本当かな〜?」

「う、うるさ〜い。そんなこと言う口はこうしてやる!」

「いひゃいいひゃい〜ひゃめひぇ〜。」


シアがからかってくる。

だから俺はそれに対抗するように頬を引っ張って仕返しをする。

といっても、お互いが本気なわけではなく、じゃれるようなただのお遊びといった感じだ。

っていうか、手触りがいいな。

お肌がすべすべできもちいい。

いつまでも触っていたくなる。


「ひゃの、ひょろひょろはにゃひてふれふ?」

「もうちょっと……。」


すべすべがきもちいい。

とはいえ、いつまでも触っていても仕方ないので、手を離すことにする。

名残惜しいけど。


この後、他愛もない話をして、お昼を食べて、またおしゃべりをして、夜にはアデラードさんがやってきて、一緒に夕飯を食べて、というなんの変哲も無い時間を過ごす。

それがなんとも落ち着くこと。


いつの間にか、こんな時間が当たり前になっていたんだなぁ。

こうなってくると、次の段階を望んでしまいそうになる。

でも、まだ子供を作るのは早いな。

まだ全然世界を見て回れてない………というか、ダンジョンに全然潜ってないわ。

まずはそこからだな。

とりあえず……馬鹿とユーリに誘われてたし、今度潜ってみようかね。

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