第534話 帰るとするか。的なお話

従業員からのお叱りタイムは10分ほどだった。

しかし、公衆の面前でのお叱りは少々、気恥ずかしさがある。

そしてその事が恥ずかしいのかルナが顔を真っ赤にしている。


それにしても、アカネや蒼井の前だとどうも子供っぽくなってしまうな。

まあ、まだ子供だとは思うけど。

多分、日本出身というのが関係して郷愁というか、こっちの世界での大人にならなければという考えとか意識が薄れるんじゃないかと思う。

その結果、日本の時の、若者な気質が出てくるんじゃないか。

それと、同郷故の気安さが影響してると思う。


「はぁ。なんか、あんたと居ると素が出るというか、子供っぽくなっちゃうわね。」

「同郷だからじゃないか?」

「そうかもね。」


気を取り直してもらってルリエがガチャを回す。

ガチャを回すのは俺じゃないからな。

だから気を取り直してもらってなのだ。


「では、どうぞ回して下さい。」


ガラガラと、これまた勢いよく回すルリエ。

ルリエが回しているのは魔道具ガチャで、狙いは3等の魔導コンロ。

その名の通り魔道具のコンロで、これがあれば出先でわざわざ薪を用意する必要もないしすぐに調理が出来るという事で欲しいのだそうだ。

ちなみに4等は冷却ボックスという魔道具で、弁当を入れる籠くらいの大きさの箱で中に入れた物を冷やしてくれる。


「あー、残念。全部ハズレですね。またのご利用をお待ちしております。」


当たったらいいなーとは思っていても必ず当たるわけではない。

それがガチャの怖いところ。

欲しいと思っていれば思っているほど、入れ込んで、注ぎ込んでしまう。

それをどれだけ理性で抑える事ができるかが重要なのだ。


「ルナさん。あとはお願いします。」

「一応、頑張る、けど、期待、しないでね。」


ルナがルリエの意思を継ぎ、魔道具ガチャへと挑む。

しかし、現実は非情だった。


「無念、です。」

「うぅ。魔導コンロ、欲しかったなぁ……。」


結局ルナも全部ハズレで真っ白だった。


「当たったのはアデラードさんの指輪に花冠に髪紐、俺の俺が作った剣、アカネの木の棒と石か………殆ど使えないな。」

「そうね。指輪も私たちの誰かだったらまだしも、無効持ちのアデラードさんじゃね。レントの剣も正直に言って実力と釣り合ってないしね。」

「まあ、こればっかりはどうしようもないさ。それよりも、腹減らない?」

「あんたって人は………確かにもうとっくにお昼過ぎてるけどさ。」

「こういうのは諦めが肝心だからな。正直、ここに居続けるのはヤバイ。後少し、もう一回だけと言って課金して気付いたら大変なことになっている。それがガチャでカジノなんだ。」

「……それもそうね。じゃあ、もうここを出ましょうか。十分楽しんだし。」


まだ未練がましくガチャを眺めているルリエを引きずってカジノを後にする。

しかし、珍しいな、こんなルリエ。

ちょっとレアでこれが見れただけでもカジノに来た甲斐はあったな。


お昼を食べに適当なお店に入って、それから後悔した。

そのお店はちょっと高級志向よりのようで雰囲気はいい。

それはいいんだが、ギルドの酒場ならまだしもこういう所にギルドマスターであるアデラードさんと一緒に入った事で、凄く好奇の目で見られることになってしまった。


「うぅ……視線が、気になります。」


ルナは人見知り気味で尚且つ男性恐怖症だ。

視線というものに敏感。

そんな子が好奇の目に曝されるというのは精神的負担が大きくなってしまう。

幸い、ここには個室があるようなのでそこで食べる事ができたから多少はマシなのだが、それがかえって視線をより集めることになってしまった。

ギルドマスター、男と個室に入る……と。

これはマズイ。

先手を打たないと。


「アデラードさん。ここは弟子にお昼を奢るという形にしてくれませんか? 出来れば会計の際に自分が払うって言ってくれると尚良いです。」

「なんでそんな………あ、ああ。そ、そういう事。う、うん。そうだよね。まだなんだし、今はその方がいいよね!?」


まだ?

ま、なんでもいいか。

どうやらちゃんと言ってくれるみたいだし。


その後、無駄に弟子というのを強調して代金を払ってくれたアデラードさん。

その声で一応は周りも納得してくれた。

とはいえ、このままぷらぷらと遊び歩いていてはいい的なのも事実なのでさっさとレイちゃんへのお土産と、みんなのお見舞いの品を買い込んで宿へと帰るとするか。

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