第518話 響き渡った。的なお話
ああ……心地いいなぁ。
ふかふかで、あったかくてずっとこのまま……
「朝ですよ。起きてください。」
誰だろう?
聞きなれない声だ……
でも、声の主が誰かなんて今はどうでもいい。
このあたたかくて心地いい時間を満喫するんだ……
「起きてください!」
「えっ!? 何!?」
「朝ですよ、カザミ様。」
突然布団をひっぺがされて、何事かと跳ね起きてみれば昨日夜這いして来たメイドさんが布団を持っていた。
こんな起こし方、実家以来だ。
ひょっとしてこの人は誰かのお母さんなのだろうか?
「何か失礼なことを考えてませんか?」
「メイドさんにはお子さんがいるんですか?」
「いきなり何を言ってるんですか? 私はまだ未婚ですが?」
「いえ、こんな起こし方は実家以来だったので……。」
というか、昨日は排除するとかのたまってたくせに、堂々と入ってくるんだな。
「それと、昨日はすみませんでした。あなたの真意を探るため、あのようなことを言いましたが実力行使をするつもりはありませんでした。それにあれは私共が勝手にやっただけでアデラード様は関係ないので、嫌わないであげてください。」
「え、あ、そうなんですか。」
「はい。」
アデラードさんは使用人にも慕われてるようで。
でも、他にもやりようはあったのでは?
もしも俺が食いつくようなら輩だったらどうするつもりだったんだよ。
絶対に! しないけど。
「あ、それと昨日のことは全てアデラード様に報告させていただきました。勝手にやったこととはいえ、最上の結果が出ましたので。」
「はあっ!?」
「朝食の準備が整っておりますので、着替えが終わったら食堂へ来てください。では。」
言いたいことは言ったと言わんばかりにそそくさと帰っていくメイドさん。
え?
アデラードさんに言った?
マジでか!?
うわ〜〜〜。
恥ずかしい。
どんな顔して会えばいいんだよ……。
◇
若干の気まずさを感じながら食堂へと向かうとそこにはにやにやしていたアデラードさんがいる。
うっわ〜。
やばいよ。
めっちゃ嬉しそう。
あ、目があった。
と思ったら赤面して目を逸らされた。
何その反応?
こっちまで赤くなってしまう。
「どうしたのレント? ぼーっとして。」
「せ、セフィア!? い、いや、なんでもない。」
「そう?」
セフィアも起きてきて声をかけられた。
何か問題があるというわけではないがこっちもちょっと気まずい。
そしてぞろぞろと起きてくるみんな。
寝ぼけ眼のリナさんや髪を軽くまとめてるだけのアイリスさんという新鮮な姿を見せてくる。
最後はもちろん蒼井だった。
朝食を美味しくいただいているとアデラードさんから声がかけられる。
「そ、そういえば、みんなは今日は何するの?」
みんなはと言いつつ俺をチラッチラと見てくるんだけど。
どう考えても俺がメインだよね?
やっぱりあんな事言ったからだよね。
あのセリフに嘘偽りはないとはいえ、こうなってくると早まったと思ってしまう。
とはいえ、今はとりあえず答えよう。
「まだ何も決めてないですけど。」
「そっか。そ、それじゃあさ、わ、わ、私と、で、ででで……。」
何言いたいかなんとなくわかる。
でも…………もうすぐ調査隊を派遣するのにギルマスであるアデラードさんにそんな時間があるとは思えない。
あ、俺は近いうちにルリエ達とのデートでもしたいなと考えてます。
だって5日も会えないんだもん。
それくらいしたいよね、やっぱり。
「仕事はいいんですか? エリーナさんが怒りそうですけど。」
「あ………そ、そうだった……。」
落ち込むアデラードさん。
立場があるってこういうとき大変だよね。
「あ、そうだ。今度の調査の事もあるしアイリスさん。防具の点検をお願い出来ますか?」
「もちろんっすよ。レントさんのお願いなら最優先させて貰うっす!」
本当なら他の人の後でいいと言いたいところだけど、ことが事だけに、今回は優先してやってもらおう。
他の人たちには申し訳ないんだけど。
「え? 調査? なんの話ですか?」
「あれ? 言ってなかったっけ? タイラントグランドレックスが近場で現れたからその原因の調査をするって。」
「え、えええええぇぇぇぇぇーーー!!!」
初耳だったっぽいリナさんの叫び声が朝のアデラード邸に響き渡った。
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