第514話 待つだけだ。的なお話

俺達は装備を身につけ、重りを背負ってグッチャグッチャと音を立てながらランニングをしている。

前にルリエが転んでそれを俺が抱えて逃げるって事があったし、この前もレイダさんが俺をかばって怪我をした事があってそれでレイダさんを抱えて撤退した事もある。

その時は地面が固まっていたけど、今後も似たような状況になった時に足場が悪いって事があるかもだ。

だからいざその時が来た時の為にこうして訓練をしている。


そしてそれを続けること30分。

次は重りを人間に変えてまたひた走る。

重りは第一段階。

まずは負荷をかけた状態でぬかるんだ場所を走る訓練。


重りは動かないし雑に扱っても文句は出ない。

でも人間だと話は変わる。

足を怪我してるけど意識はしっかりしてるとかならともかく、大怪我をしていた場合はあんまり揺らさない方がいい事もある。

だからそれを気をつける為に次は人間を背負う。

それが第二段階。



昼休憩をするが、ちょうどいいのでこのタイミングでアイリスさんのところにカニを届けに行く。

と、同時に今夜のパーティーのお誘いもする。


「アデラードさんちでパーティーっすか?」

「そう。来れる?」

「ここんところは忙しかったっすけど、それも最近では治まって来たっすから、時間はあるっすけど………本当にいいんすか?」

「ちゃんと許可は取ったから大丈夫だよ。」

「えーと、それじゃ、お、お邪魔させていただきます。」

「そっか。それじゃ、6時までにレイランに来て。そこに迎えの人が来るそうだから。」

「む、迎えっすか……えと、了解っす。それで、服は何着てけばいいんっすかね?」

「服……うわ! そういえば全然考えていなかった! えーと、特に言われてないから、多分普通の格好でいいと思う。もしも心配だったらそういう服を持ってくればいい。俺はアイテムボックス持ちだから預かって仕舞っておけるから、かさばることはないよ。」

「そうっすか。それじゃ普通の格好で行くっす。というか、そういう服自体持ってないんすけどね……。」

「ああ、そう。ま、まあ、いいや。で、もう一つ目的があって。」

「目的っすか?」

「うん。これをおすそ分けにね。」

「な、なんっすか、これ!?」

「ハードシェルクラブとかいうカニの脚の部分を使ったステーキ。かなり美味い。」

「カニ………噂には聞いたことあるっす。あまりの美味しさに一部の貴族がそれ専用の狩猟部隊を持っているとか……。」

「いや〜、流石にそれはないんじゃないかな? カニを狩るためだけに税金を使われてるなんて知れたら暴動もんだし。」

「流石にそれはないっすよね。あははは。まあ、それは置いといて、ほ、本当にこれ食べていいんっすか? 後で代金の請求とかされないっすよね?」

「しないしない。もともとこれは自分で食べたくて依頼出した物だし、それにアイリスさんだけ仲間はずれがかわいそうだったし……。」

「仲間はずれっすか? …………………まさかっ!?」

「あ、うん。アデラードさんとリナさんは来た。」

「なんで私も呼ばなかったんすか!?」

「いや、リナさんは受付という事もありまして、手に入れてるのに呼ばないのは悪いかな〜って。アデラードさんに関しては……気づいたらなんかいた。」

「でも、途中で誰かに連絡をしてもらうとか、やりようはあったはずっす!」

「それはその通りなわけで………えっと、すまん。」

「そんなあっさり謝られると何もいえないじゃないっすか。ま、まあ、こうしておすそ分けを持って来てくれたっすから、これ以上は言わないっすけど、これからは気をつけて欲しいっす。」

「分かったよ。」


アイリスさんの言い分は真っ当で完全にこっちの手落ちだ。

次からは気をつけよう。


そしておすそ分けするカニ脚ステーキを食べてもらうために食堂部……ってほどじゃないな。

ダイニングに移動する。

ついでにお詫びというわけではないが……


「では、お嬢様。こちらの席に。」

「うぇっ? あ、はいっす。」


席を引いて座らせる。

そして後ろからサラダ類、パンにスープとストレージ内にストックしてある食べ物と一緒にカニ脚ステーキをアイリスさんの前に出していく。

続いてフォークとナイフ、それにスプーンなんかを並べていく。

そして最後にコップを取り出してそこに果実水を注ぐ。


「こちらの品はお熱くなっていますので、ご注意ください。」

「あ、はいっす。これはご丁寧にどうも………………って、なんすかこれ!?」

「お詫びと言っちゃなんだけど、ちょっともてなそうかなって。」

「頑張る方向がおかしいっすよ……。」

「ひょっとして嫌だった?」

「嫌ってわけじゃないっすけど……落ち着かないっす。」

「まあ、そのうち慣れるって。」

(………………好きな人の給仕なんて、慣れるわけないっす。)

「何か言いましたか?」

「いいい、言ってないっす! そ、それじゃいただくっす!」


俺は難聴系主人公じゃないが、今回はちょっと声が小さい上に早口気味だったせいでよく聞こえなかった。

まあ、俺が関係しているんだろうけど。

ここはそういうパターン。


「うわっ! 美味しすぎっす!」


うん。

口に合ったようでなにより。

その後は一心不乱と言っていいレベルで食べているアイリスさん。

素材の味を生かした………と言えば聞こえはいいが、ただ焼いただけのもの。

しかし、それでも自分の作ったものをこんなに美味しそうに食べてくれるのは嬉しいものだ。

それはそれとして、すぐに食べ終わっちゃったからってそんなに残念そうにお皿を眺めないでよ。

ちゃんとお代わりも用意してあるから。


「お代わりは要りますか?」

「是非っす!」


お代わりも美味しそうに食べてくれた。



「ふぅ〜。満足っす〜。」

「満足していただけてなによりです。」

「そういえば、これって自分で依頼を出したって言ってたっすよね? って事は私も依頼を出せばまた食べれるということに……。」

「なると思いますが……お嬢様はあまりお料理は得意ではなかったはずでは?」

「そうだったっすーーー!! うぅ……自分の力量不足か恨めしいっす。」


まあ、ただ単に焼いただけなんだが、それでも1人で食べると飽きるだろうし、保存の面でも困るだろう。

となれば早めに食べれて飽きがこないようにある程度の調理技術が必要だろう。

ま、諦めるしかないよね。


「それじゃ、また夜に。」

「はいっす。」


食器を片付けて、アイリスさんに声をかけてからギルドへと戻る。

さて、次は俺の昼食だな。

先に食べられてると困るから自分の分は後回しにしたんだよな。


ギルドに戻るとみんなが食べずに待っていた。

なんで?

セフィア達ならまだ分かるけど……蒼井まで?

あ、訓練で1人遅れるのもみんな遅れるのも変わらないって。

リナさんにも伝えておいてくれた?

そうですか。

お手数おかけします。


食休みを挟んで午後は模擬戦を行う。

そりゃもう真剣にやったさ。

勝ち負けは置いといて、とにかく真剣にやった。

ちょっと負けが多い気がするが、うん。

真剣にやった。

グッチャグッチャネッチョネッチョとぬかるんでいる上で模擬戦をした結果……ズボンには泥がはね、回避の為に地を転げたりと………まあ、要するに、みんなけっこう汚れた。


このまま行くわけにはいかないので、早めに切り上げて風呂に入り、準備を終える。

アイリスさんとリナさんも既に来ている。

後は迎えが来るのを待つだけだ。

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